東芝、半導体売却まで黄信号が灯る最悪窮状 監査法人に続き半導体合弁相手とも対立激化

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半導体事業の業績は好調を維持している。写真は車載用半導体(非メモリ)(撮影:尾形文繁)

合弁契約には解釈の余地が残る上、契約の細かな取り決めまでは開示されていないため、部外者にはどちらの主張が正しいのかを判断できない。

ただ、一般的には合弁契約では100%子会社への株式譲渡に制限はかからない。第三者への譲渡になると、相手方の同意や先買権があることは珍しくないが、その場合でも他の買い手の正式提示に見劣りすれば、先買権は無効になるのが普通だ。

結論が出るまでに3~4年かかる

いずれにしろ、白黒付けるには国際司法に委ねるしかない。

工場を共同運営する両者がいがみ合っても、互いに傷を深めるだけ。工場設備の投資競争において競合の韓国サムスン電子などに遅れをとれば、致命傷になりかねない。その意味ではチキンレースでしかないのだが、不利なのは東芝だ。

近年、日本企業が絡む案件で国際仲裁裁判所マターになったのは、スズキと独フォルクスワーゲンの資本提携解消や三菱重工業と米国の電力会社による原発をめぐる損害賠償請求がある。いずれも日本企業の主張が通ったが、結論が出るまでにスズキで4年弱、三菱重工は3年半かかった。2018年3月末までに債務超過を解消したい東芝は難しい判断を迫られる。

ウエスタンデジタルの東芝メモリに対する入札額は、ほかの売却候補先と比べて「非常に低い」(複数の関係者)。それでは東芝は財務改善が図れないうえ、ウエスタンデジタルでは独占禁止法に抵触するリスクも高い。ウエスタンデジタル1社に東芝メモリを売却する選択肢はない。

である以上、綱川社長が認めるように買い手候補に東芝の主張の正当性(=裁判で勝てること)の理解を得る努力を続けることになる。並行してウエスタンデジタルをなだめる条件闘争も必要になる。

次々と持ち上がる難題をクリアできるだろうか。東芝の綱渡りは続いている。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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