フランスが国際テロの標的になる3つの理由 政治学者ジル・ケペル氏の分析とは?

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――新刊の中で、教授はジハード戦士の狙いを「幻想」と呼んでいる。テロが起きても、欧州各国の政府は戦士たちが期待しているような対テロ戦争を勃発させたりはしていないからだ。

確かにそうだ。

――2015年以来、フランスでは大規模なテロが起きていないが。

フランス当局が計画が実行される前にその芽を摘み取ってきたからだ。巨額の資金と人的資源をテロ防止につぎ込んできた。テロリスト予備軍が用いるソフトウエアのコードを解明したのだと思う。以前は実行犯がネットで情報網を広げていることを十分に理解していなかった。

シリアとイラクに拠点を置くISが爆撃やドローン攻撃で弱体化傾向にあるのも理由だろう。

フランスの近年のテロ事件の画策に多く関係していたラロッシ・アバーラ(昨年夏に警察官の妻を含む3人を殺害)は私に死の宣告を行った。そのために私は今、24時間警察の警護態勢下にあるが、彼は今年2月、米軍のドローン攻撃で殺害されている。

今でも戦士をリクルートするコンテンツはネット上にあるが、ISは手段が不足している状態だ。自分たちの命を守ることに必死だし、イラクで戦っている最中だ。西欧でのテロ計画を立案する時間があまりない。

――もしISが壊滅すれば、欧州におけるイスラム系テロは減少するだろうか。

そうなるはずだ。シリアと欧州を行ったり来たりすることが簡単だった時には、シリアに行って、帰ってきてバタクラン劇場(2015年11月のテロの発生場所)でテロを行うことができた。ベルギーに戻って、パリに来て自爆テロを行う、ということが。

しかし、いまやこれが難しくなった。いったんシリアに行ってしまうと、抜け出すことが難しい。

ジハード疲れもあると思う。テロにも効率性が求められる。人を殺すだけだったら、難しくはない。 しかし、一般大衆からの支持を喚起するのは簡単ではない。

テロを防ぐために私たちができることは?

――テロを防ぐために私たちはどうするべきか。

マクロン新大統領の課題になるが、まず教育体制を立て直すことだ。きちんとした教育を受けるようになれば、経済の再建にもつながる。教育を受けて仕事を見つけられれば、何でもできる。

2つ目は、何が起きているのかについてもっと知識を持ち、理解を深めることだ。中東研究はフランスでは最優先されていない。官僚主義の弊害だ。

欧州が世界の中でこのまま存在感を薄れさせていけば、ジハード戦士や極右あるいは外国人嫌いを表に出す政治勢力が伸長してしまうことにつながる。英国のEUからの離脱(ブレグジット)がそうだし、オーストリアでもオランダでも極右政治勢力が力を伸ばしている。フランスにはルペン氏がいる。

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