国立「三角屋根の駅舎」復活までの長い道のり 解体保存の部材使い復元、2020年完成めざす

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しかし、用地取得のメドが立たないまま月日だけは流れ、いよいよJRによる駅周辺部の連続立体交差工事のタイムリミットが来てしまう。それが2006年の末。そこで市は一度解体して部材を保存、新たに建て直すという方針を考えた。

ところが駅周辺は防火地域に制定されており、100平方メートルを超える木造の建物は新たに建てることができない。ただし、文化財に指定されている場合は異なる。100平方メートルを超える木造建築でも安全性を確保するなどして再築の必要性が認められれば、文化的価値の高いものは建築基準法で「適用除外」とされる。つまり、解体前に文化財に指定することにより、建て直せる可能性が残るわけだ。

解体ののちに保管されている部材(提供:国立市)

市はこのわずかな望みに懸けた。2006年も残り2カ月となった10月、国立市教育委員会文化財保護審議会で文化財の指定が下り、翌11月から解体工事が始まった。解体した部材は市の所有する土地にプレハブを建て保管した。木材は湿気に弱いので床をコンクリートで固め、また木材自体も密着させると湿気が溜まってしまうので、一本一本の部材の間に別の木材を挟む工夫が施されている。

一般財源を使わず再築費を確保

さて、残る問題は土地の取得だ。繰り返すが、駅舎は同じ場所に復元することにこそ意味がある。JRは解体する前に「有償を前提に市と協議する」という見解を示していた。そして昨年(2016年)10月に覚書が交わされ、今年2月に売買契約がなされた。つまり10年近くかけての交渉の末、ようやく協議が整ったのだ。

もちろん、おカネの問題もある。合意した土地代金は約6億6000万円。駅舎の再築費を含めると約10億円という膨大な費用となる。市はそれを一般財源からは出さないという方針をまず固めた。そのため、国庫補助金や基金、寄附金でまかなっていくこととした。

駅舎の復元は町おこしになるという側面から、国が区市町村の都市再生整備計画に対して助成する「社会資本整備総合交付金」を申請し、2015年に対象事案として採択された。今年2月の用地取得費用に対しても、約2億1000万円の交付金を受けた。また、ふるさと納税を含む寄附金が既に約1億円集まっている。これらを用いて、市は駅舎を再築しようとしている。

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