追加制裁迫るなか「メイドイン北朝鮮」台頭 北朝鮮を訪れるビジネスマンが見たリアル

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 5月8日、北朝鮮への追加制裁が迫るなか、同国を訪れた人たちの大半は、中国からの輸入品に取って代わる「メイド・イン・北朝鮮」製品を、以前より多く目にすると語る。写真は首都平壌にある食料品店の店員。4月撮影(2017年 ロイター/Damir Sagolj)

[平壌/ソウル 8日 ロイター] - ニンジン味の歯磨き粉から木炭の美顔パック、オートバイや太陽電池パネルに至るまで、国際的に孤立する北朝鮮を訪れた人たちの大半は、中国からの輸入品に取って代わる「メイド・イン・北朝鮮」製品を、以前より多く目にすると語る。

米国のトランプ政権が、北朝鮮に兵器開発を放棄させようと経済制裁の強化を検討するなか、北朝鮮は軍事と経済両面の発展を目指す2重戦略を推進している。

北朝鮮で売られる消費財の大半は依然として中国製だ。しかし金正恩朝鮮労働党委員長の下、北朝鮮ではより多くの自国製品を販売する方針が取られている。それは通貨流出の回避、そして自主性を唱える主体(チュチェ)思想強化のためだ、と同国を訪れたビジネスマンは語る。

北朝鮮内で製造される製品がどの程度かを示す入手可能なデータは存在しない。同国に消費財を輸出する中国やマレーシアのような国々のデータが正確に反映していない可能性もある。

北朝鮮で生産された製品の増加によって、同国向け輸出が減少しているかについて、中国商務省はコメントを差し控えた。

国家が先導するなか、朝鮮人民軍の傘下にある高麗航空や複合企業のNaegohyangのような国内大手が、タバコやスポーツ衣料といった消費財の製造など事業の多様化を行っていると、同国の訪問者は指摘する。

ロイターの取材チームは先月、首都平壌を訪れた際、政府当局者に同行され、食料品店に行くことを許された。棚は自国製の飲料類やビスケット、他の基本的な食料品であふれていた。他の訪問者も、北朝鮮製の缶詰、コーヒー、酒、歯磨き粉、化粧品、石けん、自転車などが市内で売られているのを目にしている。

「新たに工場が稼働するにつれ、食料品のブランディングやパッケージ、原料が改善している」と、店員のRhee Kyong-sookさん(33)は話す。

店を訪れた体育教師のKim Chul-ungさん(39)は「他国で製造された飲料と比べ、北朝鮮製の飲料は本物の果実の味がする」と語った。

訪問者によると、国内産消費財の質が向上しており、化粧品から清涼飲料に至る幅広い製品にQRコードやバーコードが付いているという。また、販売店側の競争も高まっており、試食品を顧客に提供したりしている。これは、5年前には見られなかった光景だ。

「2013年ごろ、金正恩氏は輸入に代わるものの必要性について語り始めた」と話すのは、北朝鮮で市民にビジネススキルを教える、シンガポールに拠点を置くチョソン・エクスチェンジのアンドレイ・アブラハミアン氏だ。

「高級品だけでなく、食料品のような低価格製品も含め、あまりに多くの製品が中国から輸入されているという明らかな認識があった」

高麗航空は現在、タバコや炭酸飲料、タクシーやガソリンスタンドといった幅広い事業を手掛けている。

「わが祖国」を意味する複合企業Naegohyangは、平壌を拠点とするタバコ工場としてスタートしたが、近年ではトランプや電化製品、スポーツ衣料まで手を広げている。

これら北朝鮮の企業からコメントを得ることはできなかった。また、こうした企業は損益計算書を公開しない。共同事業のパートナーを特定することも不可能だ。

国家による支配が強まっているグレーマーケット経済で私腹を肥やす「ドンジュ(金主)」と呼ばれる新興富裕層が増えているため、北朝鮮市場は魅力的だと、貿易業や小売り業の専門家は指摘する。

「北朝鮮の国民は中国製品を欲しがらなくなってきている。質が悪いと思っているからだ」と、北朝鮮に消費財を輸出する東南アジアの貿易業者は匿名で語った。

中国は近年、汚染された米や粉ミルクなど食の安全をめぐる数多くのスキャンダルに見舞われている。

「北朝鮮の母親は、中国やカナダの母親と何ら変わらない。彼女たちは可能な限り最高の食べ物を自分の子どもに与えたいのだ」と、北朝鮮に投資家や観光客、学術関係者の一行を連れて行く白頭文化交流社のマイケル・スパバ氏は言う。

それでも北朝鮮はやはり対中依存

とはいえ、北朝鮮は今でも対中貿易に大きく依存しており、消費財を自国で製造するための原材料のほとんども中国から、あるいは中国経由で輸入している。

例を挙げると、自国製のインスタントコーヒーは北朝鮮で当たり前になりつつあるが、それに使われている砂糖は中国製、もしくは他国が生産し中国経由で輸入されている可能性が高いと、アブラハミアン氏は指摘。

「オートバイや太陽電池パネル、食料品を含む自国製品は増えているものの、これら製品を製造するための取引はいまだ中国に依存している」と同氏は述べた。

中国に依存しているせいで、もし経済制裁が強化されれば、こうした「メイド・イン・北朝鮮」製品をつくる同国企業は直撃を受けることになる。

外交官らによると、北朝鮮のミサイル発射に対し、国連安全保障理事会が、追加制裁などのより強力な対応を取る可能性について、米国は今週、中国と協議しているという。

「何らかの形で全員が炭鉱業と関わっている人口1万人の炭鉱町があったとしよう。もし北朝鮮の石炭に対し制裁が科されるなら、町全体の消費者市場が打撃を受けることになるだろう。住民の購買力が失われるからだ」と、アブラハミアン氏は語った。

(Sue-Lin Wong記者、James Pearson記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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