日本の高齢者は、なぜこうも「不機嫌」なのか

会社にへばりつこうとすることと密接な連関

病気、身体的な不自由。金銭的な不安。さまざまな要素は折り重なるとしても、これは世界各国共通の話である。「なぜ、日本だけが」という話については、次回、専門家のインタビューで詳しく分析する予定だが、筆者が特に、大きな要因ではないかと考えるのは、高齢者の深刻な孤独感、そして、満たされない承認欲求だ。

以前、日本の中高年男性が特に孤独であるという話(日本のオジサンが「世界一孤独」な根本原因)を書いたが、社会的孤立感は幸福度を最も大きく下げる原因であり、都市化、過疎化、核家族化、少子化などによって、その度合いは年々、加速している。と同時に、人としての生きがいの重要な柱である「人に認められたい」という欲求が満たされる機会がほとんどなくなってしまっている。「承認欲求」は人間の根源的な欲求の1つだ。子育てや仕事で認められ、感謝され、必要とされていた自分がいつの間にか、邪魔な存在になっている、と感じるとき、人は生きがいを失うのではないか。

そこに重なるのが、「特に、経済的ニーズがない人でもいつまでも会社や組織にへばりつこうとするのか」という疑問だ。企業のトップなどを経験した後、顧問や相談役などとして、会社に残り続けようとする人たちは少なくない。今、大変なことになっている電機メーカーを含めて、顧問や相談役がワンフロアに集結し、「老人クラブ状態」というのはよく聞く話だ。何でも、こういう人々は、「部屋」と「黒塗りの送迎の車」と「秘書」、この3種の神器を失うことが何より怖いのだという。

エグゼクティブは退職後、チャリティ活動へ

ひるがえって、欧米などでは、企業のトップや幹部は日本のエグゼクティブの10倍も100倍も稼ぎ、とっとと辞めてリタイアメントライフを送るのを楽しみにしている。世界に散らばるセカンドハウスを行き来したり、好きな趣味に没頭したり、講演活動をしたり。リタイアメントはまさに、夢を実現する待ち焦がれた時間でもある。

こうしたエグゼクティブは退職後、チャリティ活動にいそしむ。たんまり稼いだおカネをごっそりと寄付し、〇〇図書館、××ホール、などと名前を冠した施設を造ってもらう、慈善事業に寄付して、ありがたがられる。また、それほど余裕がなくても、ボランティアなどして、社会貢献をする。こうしたことで「承認欲求」「名誉欲」を満たしていくのだ。日本ではこうした話はあまり聞かない。黒塗りに固執するおじさま方が恐れているのは、社会から認められなくなる、必要とされなくなる、そういった高齢者特有の喪失感なのだろう。

批評家の浅田彰氏は、「(ドナルド・トランプ勝利の背景には)白人男性を中心とする『サイレント・マジョリティ』の『承認』欲求、つまり、過剰な『承認』を受けているかに見えるマイノリティへの嫉妬と憎悪が異様に亢進していたことがある」と看破したが、日本のキレる高齢者の怒りのマグマの源泉は、同様の「満たされぬ承認欲求」といえるのかもしれない。

キレる高齢者が増えている、というが、それは社会全体に高齢者が増えたからそう見えるという側面はあるだろうし、単に、年を取れば、気が短く怒りっぽくなるからということで片づけられるものでもない。そうした意味で、高齢者を疎外したり、単に批判したりしても、何ら問題は解決しないし、今若くても、誰もがいつか同じように自らの成功体験をひけらかす頑固で怒りっぽい高齢者になるかもしれないのだ。

高齢者の承認欲求という渇望を満たすためには、新たな顕彰のシステムやコミュニティづくりのアイデアも必要だろう。また、世代間、さらに高齢者同士のコミュニケーションが、質量ともに絶対的に不足している。声をかける。あいさつをする。感謝をする。褒める――。何げない言葉がけや会話から、お互いをハッピーにするきっかけは生まれてくるはずだ。

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