日本の高齢者は、なぜこうも「不機嫌」なのか 会社にへばりつこうとすることと密接な連関

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しかし、驚くことに欧米では、「年を取ると、より性格が穏やかになり、優しくなる」というのが定説だ。筆者も通算6年ほど、イギリスやアメリカで暮らしたが、お年寄りになればなるほど、話し方がゆっくりになり、気は短くなるというより、長くなる印象がある。一昔前までは日本でもこちらのイメージのお年寄りが多かったように思う。

科学的に見ても、そういう傾向を実証するデータは多い。今年1月にイギリス・ケンブリッジ大学の脳科学者たちは脳の分析調査を発表、「年を取るほど脳の前頭皮質が薄くなり、よりしわになることなどから、気が長くなり、穏やかになる」と結論づけた。

ケンブリッジの科学者の言葉を借りれば、「人間は年を取るほど、神経質ではなくなり、感情をコントロールしやすくなる。同時に、誠実さと協調性が増し、責任感が高まり、より敵対的でなくなる」のだそうだ。これはまさに、日本の高齢者に対する評価とは真逆である。

人は年を取るほど幸せを感じるはずなのに…

不満を抱える日本の高齢者。これは世界的な幸福度の調査からも垣間見える。そもそも、幸福度を測るランキング調査などにおいて、日本は先進国の中ではかなり低い順位に終わることが多い。たとえば国連の「World Happiness Report 2017」によれば、日本の幸福度は世界155カ国中51位。サウジアラビアやニカラグア、ウズベキスタンなどよりも低い。

OECDの「Better Life Index(2015)」によれば、人生に対する満足度は38先進国中29番目だ。これについては、日本人はこうした調査において、低めの点数をつける傾向があるとの指摘がある。だから、国際比較にはあまり意味がないという人もいるが、それはさておき、問題は、日本では年を取るほど、不幸だと感じる人が多いという結果である。

人は年を取るほど幸せを感じる人が増える。これは欧米などで顕著な傾向だが、日本では、まさにその逆。年代別の幸福度を追った調査では、先進国においては、幸せは若いころに高く、中年で低くなり、高齢になって再び上がるというまさにUカーブの傾向がある。17~85歳までの2万3000人を対象にしたロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの調査では、最も幸せなのは23歳と69歳だったそうだ。一方、日本では年を取るにつれ、幸福度が下がっていく。

年を取れば幸福になるという傾向について、英『エコノミスト』誌は「年を取るほど、争いごとが少なく、争いごとに対するより良い解決法を出せる。感情をコントロールすることができ、怒りっぽくなくなる。死が近づくと、長期的なゴールを気にしなくてよくなり、今を生きることが上手になる」と分析しているが、なぜ、こうした現象が日本では起きないのか。

これには多くの原因が考えられるだろう。朝日新聞の声欄では、「キレる高齢者が増えている」と指摘する若者の意見に対し、高齢者の立場からさまざまな意見が寄せられている。

「暇なんだ」「話し相手が欲しい」「自分にイライラしている」「私たちは一生懸命働き、そのおかげで日本は先進国入りをし、東京オリンピックまでやれた。お国のために働き続けてきた私たちの言動を大目に見てほしい」「昔のように3世代が一緒に暮らすことも、お寺で法話を聞いた後に他の信者と会話を楽しむことも少なくなった。人生に対する不安や不満を誰も本気で聞いてくれない。老年期は寂寥(せきりょう)感がつのるばかり」などといった声が集まった。

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