それでも銀行におカネを預けておきますか? 預金が「紙くず」同然になる日の現実味

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2015年、第四銀行の定期預金が満期になった。金利は年率6%の複利で、預け入れは100年前の1915年。大正天皇即位の記念定期預金として第四と合併した新潟貯蓄銀行が集めたものだ。

一世紀にもわたり6%の複利で運用した結果、満期に元手は339倍にも膨れ上がった。ところが、当時の初任給は50円程度で、約20万円となっている現在の4000分の1程度だ。当時初任給全額をはたいて預けても、元本の50円は50円のままだ。この証書の骨董的価値を別とすれば、満期で返ってきたお金は元利金合わせて1万7000円。今の初任給の10分の1にも満たない。預け入れから半世紀後、猛烈なインフレに見舞われたためだ。

そのような過去を経験したにも関わらず、個人預金は、データ開始の1969年以降、ほぼ一貫して増加している。現在の残高は937兆円。人口1人当たりで720万円と、米国の2倍、ユーロ圏の3倍にのぼる。弊社が定期的に行っている個人投資家アンケートでも、「今は投資や消費より貯蓄を増やすべき」と答える人が30.4%に上り、「投資や消費を増やすべき」という回答の25.8%を上回っている(今年4月初旬調査)。

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だが、100年定期の例は極端だとしても、預金は長い目で見るとまったく「安全資産」とはいえない。最大の脅威は、やはりインフレである。また、政府の税制や銀行の信用力悪化で、預金が毀損したり、預金者が経済的な不利益を被るというリスクもある。さらにマイナス金利政策が長引けば、口座管理手数料が徴収されるリスクも浮上してくる。

本当に預金はこのまま銀行に預けておいてよいのだろうか。

30年連勝の定期預金がインフレに負け始めた

預金と消費はどちらが有利なのか。実は、デフレが始まる前の1980年代からつい最近まで、3年定期預金の受け取り利息は、物価上昇率に負けたことがなかった。

例えば、1987年1月に100万円の元本を3年間定期預金に預けた場合、3年後の満期時点1990年1月に12万5000円の金利を受け取ることができた。一方、100万円だったモノの値段は同じ3年間で5万3000円しか上昇していない。定期預金の圧勝である。

ところが、この2~3年は、勝敗が微妙になっている。定期預金金利は、一部の特殊な金融機関のキャンペーンを除いて、0.01%程度、つまり、ほぼゼロである。これに対して、インフレ率は概ねプラス圏で推移している。

さらに、直近4月の消費者庁の調査によると、消費者が予想する今後1年間の物価上昇率は1.46%と高水準になっている。食料品、日用品など、ネットでは買いにくい身近なものが、微妙に値上がりしているためだ。

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