持続的成長のために資源節約技術に支援を

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必要な先進国政府の技術開発と資金提供の取り組み

将来、世界経済はエネルギーや水、土地を節約できる代替エネルギーを開発するか、あるいは現在よりも低コストで(太陽発電や風力発電などの)再生可能な新しい形のエネルギーを利用できるような代替エネルギーを導入する必要がある。そうした代替技術は存在しており、さらに優れた技術の開発も可能である。その際、一つの重要な問題は、代替技術は現在使われている資源浪費型技術よりも高価であるということだ。

たとえば世界中の農民が通常の灌漑(かんがい)から点滴灌漑に転換することで水の利用を劇的に減らすことができる。点滴灌漑では、チューブを使って植物に直接水を散布する一方、穀物の収穫率を維持するか高めることができる。しかし、点滴灌漑への投資は一般的に行われる灌漑手法よりも高価である。貧しい農民は投資資金を持っていないため、水が公共の水源から取水できるか、あるいは政府が点滴灌漑に補助金を出さないかぎり、投資の誘引はないだろう。

同様な例はふんだんにある。投資を増やすことで農業の収穫率を増やし、建物の冷暖房用のエネルギー使用を減らし、自動車の燃費を大幅に改善することができる。しかし、新しい資源節約型技術への投資は十分な規模で行われてこなかった。なぜなら市場のシグナルは正しいインセンティブを与えてこなかったし、政府が開発と利用に十分に協力してこなかったからである。

もし現在の道を歩み続け、運命を市場に委ねるなら、資源の浪費によって世界の成長は鈍化するだろう。しかし、世界各国の政府が調査、開発で協力し、資源節約型技術と再生可能のエネルギーの普及で協力すれば、急速な経済成長を持続することは可能である。

現在進んでいる気候変動の交渉は、この問題に対するよいスタート地点となる。先進国は再生可能なエネルギーや燃費のよい自動車、環境配慮型ビルディングなどの開発を進める巨大プロジェクトへ資金を提供すると約束し、こうした技術の発展途上国への移転計画に取り組む約束をすべきである。先進国政府がそうした約束をすることで、気候変化をコントロールすることが長期的な経済発展に障害とならないという自信を貧しい国に与えるのだ。

ジェフリー・サックス  コロンビア大学地球研究所所長
1954年生まれ。80年ハーバード大学博士号取得後、83年に同大学経済学部教授に就任。現在はコロンビア大学地球研究所所長。国際開発の第一人者であり、途上国政府や国際機関のアドバイザーを務める。『貧困の終焉』など著書多数。

(写真:吉野純治)

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