「東芝府中事業所」の存亡に揺れる住民の胸中 存続か?再開発か?企業城下町の栄枯盛衰

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東芝府中事業所の南門には、「新生東芝のトップランナー」と、従業員の士気を高める看板が掲げられている(筆者撮影)

1940年に鉄道車両の工場として出発した東芝府中事業所。電力・産業機器・同制御システム、鉄道車両・同部品、エレベーター、放送局用スタジオシステム、水素エネルギー・燃料電池など、東芝の多岐にわたるインフラ系事業の拠点だ。

派遣社員や常駐する協力会社従業員を含めると、全従業員数は約9000人におよぶという。高度経済成長期には約3万人が働いていた巨大工場だった。敷地面積は72万㎡で、同社の国内最大の事業所である。

まるで没落した旧家が家宝を売るように、すでに東芝は優良な医療機器部門をキヤノンに売却し、家電部門を中国企業に売った。パソコン生産、テレビ開発の青梅工場は、2017年3月に閉鎖。同社は米国の原子力発電所事業にかかわる巨額の損失が発覚、債務超過になっており、その解消のため、稼ぎ頭であるNAND型フラッシュメモリを主力とする半導体メモリ部門(四日市事業所)の売却を模索している。あらゆる事業を放出し、今後の事業をインフラ系に集約する同社にとって、府中は”最後の拠点”というべき事業所なのだ。

「東芝町」の地名が消えればイメージ低下?

エレベーターなど府中のインフラ事業は今後の東芝を支える柱だ(筆者撮影)

府中事業所は立地がよい。東京都府中市は、京王線府中駅から新宿駅まで昼間は特急で約20分と近く、緑が多いうえに、公共施設が充実し、公共サービス・福祉が手厚いのである。

2008年には不動産会社のポータルランキング「住みたい街」ランキングで首位になった。人気住宅地の都心回帰が進み、通勤の利便性を基準にした”東高西低”に変わっている逆風下でも、まだまだ人を集める潜在力のある街だ。府中駅前の再開発が終わり、マンション建設が盛んで、戸建て住宅の建て替えも進んでいる。

うち東芝府中事業所は、京王線府中駅からバス便利用になるが、武蔵野線北府中駅とは西口で直結。北府中駅から中央線西国分寺駅までは1駅2分と近い。そこに東京ドーム14個分という東芝のまとまった土地がある。府中市に「東芝町」という地名があるくらいだ。

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