片岡鶴太郎「定年後に遊ぶのでは遅すぎる」 自分の魂を喜ばせるのは何か知っていますか

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私に最初に絵を描かせてくれた赤い椿の花は、私が気づくずっと前からそこに咲いていました。

普段は気づかなかったその存在に気づくことができたのは、心が自分の内に入っていたからだと思います。調子がよくてイケイケのときほど、そういうものに目が行かないものです。

そう考えると、がむしゃらに働く20代、30代を過ぎて、少し余裕が出てくる頃こそチャンスではないでしょうか。それはある意味、神様からのプレゼントだと思うのです。

30代後半ですべてをなくした孤独感、無力感、焦燥感がなければ、私は椿の存在に気づかなかったでしょう。周りの人間も、いえ私自身でさえ、絵を描くことになるとは思っていませんでした。それがあの日、早朝に気づいた椿の存在で、道が開けたのです。

「ボクシングの次は絵なんかやって、今度は芸術家気取りかよ」

と口さがないことを言われたこともあります。でも、何を言われても構いはしません。私の魂の根源的な欲求なのですから、どうしようもないのです。

まったく不安はない

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そして今の私には、まったく不安はありません。さまざまな人との出会いやたくさんの贈り物によって、魂の歓喜を感じることができているからです。

おカネがあって、大きな家があって、高級車に乗って、贅沢な料理を口にして、すてきな家族に囲まれてと、多くの人が信じる幸福像は、ひょっとして自分自身の幸福ではないかもしれません。

そのことに気づかず、自分の魂に背いた生き方をすることで、不安になる。その不安を打ち消そうとすると、ますます不安になる。少なくとも私はそうでした。

自分の魂が歓喜するシード(種)は、自分の中に必ずあって、自分にしか気づくことはできません。もしも小さなシードの存在に気づいたら、水をやり、声をかけ、慈しんで育ててください。失敗してもめげず、周りの人が何と言おうと振り回されずに。最後に私の大好きな言葉を記します。

汝の立つところ深く掘れ、そこに必ず泉あり

片岡 鶴太郎 芸人

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かたおか つるたろう

1954年東京都西日暮里生まれ。幼少の頃より役者になることを夢見て、学校ではモノマネのうまい人気者として親しまれた。高校卒業後、片岡鶴八師匠に弟子入り。3年後には声帯模写で独り立ちし、東宝名人会、浅草演芸場に出演する。その後、テレビのバラエティ番組を足がかりにして広く大衆の人気者となり、1988年にはボクシングのライセンスを取得した。1995年、東京にて初の個展「とんぼのように」を開催。現在は幅広いキャラクターを演じる役者として、ドラマ・映画・演劇など様々なメディアで大活躍。1989年、映画『異人たちとの夏』(大林宣彦監督)で第12回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞受賞。その他、毎日映画コンクール新人賞、キネマ旬報助演男優賞、ブルーリボン助演男優賞など、受賞多数。2014年は齢四十から始めた画業が20周年を迎えるとともに、自身の還暦が重なる記念すべき年となる。2015年3月、書の芥川賞と言われる「第十回手島右卿賞」を受賞

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