「卵子凍結」を考える女性の知られざる実情 20歳から45歳の女性たち385人を調査

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もちろん、現在も日本国内のすべての産婦人科や不妊治療施設で簡単に実施できるわけではなく、“受精卵の凍結しかできません”と回答する医療施設も少なくない。誰もが軽い気持ちで卵子凍結ができるほどの環境は整っていない。

しかし、「実は自分の卵子を凍結保存しています」という経験者の声を聞く機会は確実に増えた。2014年に日本生殖医学会が卵子凍結について容認する見解を出したこと、そして、2015年に浦安市が卵子凍結について助成を開始すると発表したことなども後押ししているのだろう。

若い女性たちの中に「将来の自分のために」と自分の体を考えながら働く人が増えてきていると感じる。

高齢不妊治療の現実が若い世代に伝わった

不妊治療クリニックを経て、がん患者をはじめとする卵子凍結保存に10年以上携わっている香川則子氏は、若い世代に現実が伝わってきた理由として、高齢の不妊治療患者たちが増えたことを挙げている。

「21人に1人が体外受精児というほど、不妊治療は日本で一般化しています。そうした中、晩婚になることや体外受精治療をする可能性があることを前提に、もし将来出産することを望むなら、少しでも若い時に卵子凍結をして備えたほうが得策である、そう助言をする人が増えたのだと思います。

職場の40代の先輩が“仕事ばかりしている”後輩女性に伝えることで、“治療者の約1割しか出産に至らない事実”が、20代女性にも近い将来の自分ごととして想像できるようになってきたのかもしれません」

香川氏は、2004年から体外受精の症例数が世界でいちばん多いといわれる施設に勤務し、高齢の不妊治療患者たちを担当。34歳以下ならば2割の出産率であるのに対して、日本の高齢不妊患者の多さ(平均年齢39歳)から、全体の体外受精の治療成績を1割に半減させている事実に驚愕したという。

そこで、体外受精技術を高めるより、「生物として母子ともに安全に産める時期」の啓発活動を高齢不妊予備軍の若い女性たちへ行ったほうが、経済負担もなく安全に、妊娠出産育児に臨めると気づき、がん女性の妊孕能温存研究や未受精卵子の凍結保存にかかわるようになった。浦安市のプロジェクト等にも参加している。

「卵子凍結技術が確立した2000年当時『卵子凍結なんて高額で危険なことをせずとも、社会が変わればいいだけ』という有識者のコメントが散見されました。でも、16年が過ぎた今も“産みたい人が安全に産みたい人数を産み、働きながら安心して育てられる社会”にはなっていません。母子ともに安全に妊娠出産できる年齢や女性特有の病気やキャリア形成期が重なることを知らず、生活と仕事、生殖のバランスやプランニングについて知る時期も取り組む時期もすべてが放置されて手遅れになっています」

浦安市が行っている卵子凍結保存プロジェクトでは、対象年齢を34歳以下としているが、香川さんのところに相談に来る女性に年齢制限はない(実施する場合は年齢制限あり)。そのため、35歳以上が7割、2割が40歳を超えてから卵子凍結保存について相談に来るのだという。

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