日本人が知らない「睡眠ビジネス」の最前線 世界中が快適な眠りを求めている

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でも、私が「ドリーム」を取り外したくなったのは、着用するのが煩わしかったからではない。誰かに自分の脳波を読まれている(そして介入されている)という事実が嫌だった。本物の医者でなければ、誰かに任せたくない領域だ。

「リタイマー」のゴーグルも不快だった(299ドル)。暗くした部屋で、蛍光グリーンの光の中で私の目が浮かび上がると、ネコは怖がって逃げてしまった。「ゴーストピロー(GhostPillow)」(85ドル)は、「特許出願中の熱感度技術」で一晩中頭をクールに維持できるというモノ。とても快適だったのは間違いないが、ポリウレタン製という説明を読んでがっくりきてしまった。

「グッドナイト・ライトLEDスリープ(Good Night Light LED Sleep)」は、メラトニン生成を促す「特許技術」を使っているという電球(28ドル)。本当にその効果があるかどうかは確かめようがない。ただ、はっきり言えるのは、中年の筆者にはこの電球では暗すぎて、確実に眠りを誘ってくる本も読めなかったことだろう。

やっぱり最後はメディテーション

そしてまた午前3時に目が覚めてしまった。なんとか眠りに戻れたけれど、午前5時にまたぱっちり。ネコがサイドテーブルに置いてあった「センス」を床に落とすと、センスは赤くなって怒り、「大きな騒音がありました」と、スマホのアプリが言う。

センスが記録した筆者の睡眠ヒストリーには説得力があったけれど、やっぱり嫌な気分になった。寝室の空気が「理想的ではない」ってどういうこと? それにシリコンバレーのスタートアップに自分の睡眠パターンを見られているなんて気味が悪かった。

ロースティンが教えてくれたリラックスのレシピは、自分の体をもっと意識して呼吸を整え、そこに感謝を組み合わせること。足の裏からはじまり、全身のパーツに一生懸命働いたことを感謝する。たとえば「ひざさん、いつも楽なことばっかりじゃないわよね。今は休んで」と声をかける……。

それでも、何週間かぶりに最高の睡眠を得ることもできた。料金は22ドルで、持続時間は33分。マンハッタンの瞑想スタジオ「インスケープ(Inscape)」で受けた「ディープレスト(Deep Rest)」というクラスだ。

インスケープは、オランダ人建築家ウィンカ・ダベルダムがデザインしたスタジオで、2013年に1億3000万ドルでGAPに買収されている。創設者のカジャク・カレジアンが目指すのは、世俗的でモダンな瞑想「マインドフル・ラグジュアリー」を提供することだ。

クラスでは、インスケープのオーストラリア人女性スタッフの録音に導かれて瞑想が始まる。クラスでは「スカイ(Skye)」と呼ばれている声だ。スタジオにはファシリテーターがいるが、いびきが大きくなりすぎた人の足を触って注意を促すくらいで、インストラクター的なことはしない。

ある雨の火曜日のランチタイム、筆者はボルスター(補助枕)と、枕、それに心地よいフリースのブランケットが置かれた柔らかいマットの上に横になった。「スカイ」が、目を覚ましているよう促す。次にロースティンのクラスで聞いたのと似たようなテキストを、独特の滑らかな声で読み上げた。

いつのまにか、うとうとしていた。周囲のくぐもったいびきからすると、他の参加者もそうだったようだ。その晩は、明け方までぐっすり眠ることができた。

(執筆:Penelope Green記者、翻訳:藤原朝子)

© 2017 New York Times News Service

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