欧州の政治リスクが後退した「3つの理由」 なぜマクロン氏は勝ち残ることができたのか

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EUの弱体化をもくろむロシアは最近まで、フランス大統領選でルペン候補を勝たせるために、国民戦線の運営資金を援助するだけでなく、ロシア政府系のメディアを使って最有力候補であるマクロン候補を中傷する偽ニュースを繰り返し流していました。

しかしながら、欧州の人々は昨年ドイツで流された「偽ニュース」などの経験からも、ロシア政府系のメディアによるニュースに惑わされなくなってきているようです。

プーチン政権はロシア世論の引き締めに手いっぱい?

それに加えて、ロシアの野党指導者アレクセイ・ナワルニー氏が制作した汚職告発映像がきっかけとなり、3月下旬にはプーチン政権の腐敗に抗議する大規模なデモがモスクワをはじめ、全国の主要都市で起こっています。

このデモで特徴的だったのは、ソ連の崩壊やロシアの債務不履行といった、混乱期を知らない若者の参加が目立っていたということです。政治に無関心であった若者が主流となったデモ活動に対して、プーチン政権はかなり焦っている様子であり、世論の引き締めにかかっているともいわれています。

4月に入ってサンクトペテルブルクでは地下鉄爆破事件が起こりましたが、このテロ事件に対しても、民衆からプーチン政権への批判が高まっているようです。

汚職による政権批判をかわすために、あえてテロ対策を怠ったのではないかという意見が出ているほどなのです。ロシアでは大規模な反政権デモが再び行われることも想定されていて、プーチン政権は国内の引き締めに注力せざるをえなくなってきているようです。欧州の選挙に介入する余力は、今ではかつてほどなくなってきている可能性が高いというわけです。

フランス大統領選の第1回目の投票では、欧米の選挙では世論調査が当てにならないという流れを見事に断ち切ることができました。

たとえ「隠れルペン支持者」がある程度はいたとしても、たとえ極左のジャン=リュック・メランション氏の票がルペン氏に大多数流れたとしても、たとえパリやニースで起こったような大規模なテロが決選投票直前に起こったとしても、先に述べた3つの理由から、第2回目の決選投票では波乱は起きないといえるでしょう。

ですから、欧州の政治リスクは年初よりもかなり後退したとみて差し支えないというわけです。

中原 圭介 経営コンサルタント、経済アナリスト

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なかはら けいすけ / Keisuke Nakahara

経営・金融のコンサルティング会社「アセットベストパートナーズ株式会社」の経営アドバイザー・経済アナリストとして活動。「総合科学研究機構」の特任研究員も兼ねる。企業・金融機関への助言・提案を行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・経済教育の普及に努めている。経済や経営だけでなく、歴史や哲学、自然科学など、幅広い視点から経済や消費の動向を分析しており、その予測の正確さには定評がある。「もっとも予測が当たる経済アナリスト」として評価が高く、ファンも多い。
主な著書に『AI×人口減少』『これから日本で起こること』(ともに東洋経済新報社)、『日本の国難』『お金の神様』(ともに講談社)、『ビジネスで使える経済予測入門』『シェール革命後の世界勢力図』(ともにダイヤモンド社)などがある。東洋経済オンラインで『中原圭介の未来予想図』、マネー現代で『経済ニュースの正しい読み方』、ヤフーで『経済の視点から日本の将来を考える』を好評連載中。公式サイトはこちら

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