フランス大統領選挙、「中道マクロン」の苦悩 気鋭のカリスマは「右でも左でもない」

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ただし、大統領に当選すれば安泰とはいかない。6月に行われる総選挙(国民議会選挙)で「前進!」は、左派では社会党、右派では共和党という既存の組織とそれぞれ戦わなければならないのだ。

仏大統領の権限の多くは首相の支持を必要とし、首相の任命は基本的に国民議会の同意を必要とする。グランデノンによると、マクロンもそこは分かっている。「議会で過半数を制して初めて、実際の力を手にする」。

「右でも左でもなく、前に進む」という大義は守れるか?

まだ若い「前進!」が明確なアイデンティティーを確立し、十分な選挙戦を展開して議会で過半数を獲得することができるだろうか。もしできなければマクロンはどの勢力を頼り、どのように政治基盤を築けばいいのだろうか。

単独で過半数に届かなければ、他党の協力が不可欠になる。右派左派どちらかの政党と連立政権を組み、その関係に身動きが取れなくなれば、「右でも左でもなく、前に進む」という大義が損なわれる。

手を組むなら、社会党の穏健派が妥当な相手になりそうだ。彼らは自党の大統領候補ブノワ・アモンが「左寄り過ぎる」と不満を抱いている。マクロンの親EU路線と、再生可能エネルギー分野を中心とする公共支出拡大政策も受け入れやすい。

ただし社会党と協力すれば、今回はマクロンに投票した共和党のリベラル派も、次の22年の大統領選で共和党支持に舞い戻ることも考えられる。

一方で、マクロンは週35時間労働制の見直しや年間600億ユーロの歳出削減を掲げるなど、経済政策は社会党よりかなり右寄りだ。従って共和党も取り込んでおけば、公約の実現には有利だろう。ただし、マクロンの中心的な支持者は左派出身者が多く、彼らは共和党との接近に困惑するだろう。

「前進!」は全選挙区に候補者を立てる予定であり、単独で過半数を得られるとマクロンは主張する。だが、そこには大きな課題がある。

世間にとって「前進!」のアイデンティティーは、「何者か」というより「何者ではないか」だ。「前進!」のアルノー・ルロワ副代表は、「極右ではない」と自分たちを定義する。「(私たちは)フランスの民主主義にとって、ルペンに滅ぼされる前の最後のチャンスだ」

そのような主張は、大統領選の決選投票では「ルペン阻止」の票を集められるかもしれないが、総選挙のメッセージとしては弱い。

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