テレビが「東大ブランド」にすがり始めた理由 需要があるのは権威なき時代の権威だからだ

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私にはその理由が何となくわかる気がする。というのも、私自身は東大を卒業していて、テレビ制作会社に勤めていたこともあるからだ。「東大」と「テレビ業界」という2つの世界を経験してきた私から見ると、この2つは対極にある存在だ。東大は「知の殿堂」であり、テレビ業界は「俗世の極地」である。

この2つは決して混じり合わない。お互いがお互いから遠いところにある。そして、いわゆる「世間」はどちらかというとテレビのほうに近い。特にゴールデンタイムのテレビ番組を見ている層は、「世間」そのものとほとんど重なっていると言ってもいい。

権威が揺らいでいない、最後の砦

世間から見ると、「東大」は遠くにある異世界のように感じられる。赤門の内側で何が行われているのか、そこに生息する東大生や東大教授は普段何を考えて、どう生きているのか、なかなか想像がつかない。だからこそ、そこについて詳しく知りたいと思うのではないか。

単なる「異世界」なら東大以外にもたくさんある。その中で東大だけが特別視されるのは、そこが日本の学歴社会の頂点であり、誰もがその事実を知っている。そして、今のところはその権威が揺らいではいないからだ。

ここ数十年のうちに、日本人の生き方や価値観は多様化の一途をたどってきた。国民の誰もが認めるスーパースターや、国民の誰もがあこがれる職業はもはや存在しない。個々人が自分の好きなものを自由に選び、好きなように生きているこの社会では、絶対的な権威と呼べるようなものが存在しなくなっている。

しかし、東大だけは例外だ。世界レベルで比較すると「東大の国際的な評価は年々下がっている」などと言われることもあるが、腐っても東大は東大。国内ではいまだに東大が入試偏差値や知名度における序列の頂点にあることは疑いがない。

いわば、東大とは、価値観が多様化するこの世の中で、最後に残された権威の砦である。これを失ったら、私たちにはもう何も残されていない。最後の聖地であり、最後の秘境。だからこそ、多くの人がそれに興味を持ち、知りたいと思うのだろう。

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