EU、選挙リスクよりECBのジレンマが深刻に 理事会は分裂へ、迫る政策遂行の行き詰まり

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4月14日に米財務省から公表された「為替政策報告書」は為替操作国認定の有無ばかりが注目されたが、ユーロ圏に対する評価の中で「経済パフォーマンスの質に照らして加盟国間で著しい分散(considerable dispersion)が見られている」との記述があった。為替相場の観点からは、「一部加盟国の脆弱さにより押し下げられた単一通貨ユーロが一部加盟国にとって実質実効ベースで過小評価になる」という理論的な事実につながるため、同報告書で言及されているのである。

筆者はこうした現象をドイツの「永遠の割安通貨」問題と呼んできたが(詳しくは拙著『欧州リスク』)、為替政策報告書では「ドイツの実質実効為替相場は2009年以降で10%下落しており、こうした動きはドイツが通貨同盟の一員でなければ、巨大で執拗な経常黒字に照らせば直観的に理解できるものではない(counterintuitive)」とかなり率直な批判が展開されている。

これが円に向けられた記述ならば、おそらく強烈な円高になっていた可能性もあるが、英国のEU離脱(や突然の総選挙)、フランス大統領選挙、そして最も懸念されるイタリア総選挙といった重い政治リスクを抱える現状ではなかなかユーロ買いが強まるには至っていない。だが、ドイツを中心としてユーロ圏の経常黒字が際限なく膨張し続ける中、いよいよ米国の通貨当局が言及せざるを得ない状況にまで至っているのが現実である。

「不当な通貨安」を自白したドイツ

また、ドイツ高官からも自国の経済・金融状況の異質さを認める発言が多々見られている。今年2月以降、ヴォルフガング・ショイブレ独財務相は「ユーロ相場は、厳密に言えばドイツ経済の競争的立場から見て低すぎる。ECBのドラギ総裁が拡張的金融政策に乗り出した際、私はドイツの輸出黒字を押し上げると総裁に言った」と述べ、アンゲラ・メルケル独首相からも「もしドイツマルクが存続していれば、現在のユーロ相場と異なった水準にあったのは間違いない」との発言が見られている。先進各国が暗黙のうちに通貨安を求めやすい現状を踏まえると、首相や財務相自らが「われわれの通貨は過剰に安く、そのせいで輸出が加速している」と言い放つのはかなりまれである。

ピーター・ナバロ委員長が、ユーロは「暗黙のドイツマルク」であり、これが過小評価されていることで、ドイツが有利に貿易を進めていると批判した。実は上述のメルケル首相やショイブレ財務相の発言はナバロ委員長への反論の一部なのだが、反論のポイントは「欧州の金融政策はドイツが決めているものではない(言い換えれば通貨安はドイツではなくECBのせい)」という点であって、「通貨安で黒字を荒稼ぎしている」という点については、むしろ認めているのである。

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