ネット時代に活躍する、若手トップ棋士
新世代リーダー 渡辺 明 将棋棋士

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中学生の終わり頃、プロ棋士の養成機関である奨励会を突破しプロ棋士となった。中学生でプロ入りしたのは将棋界のスーパースター羽生善治氏に次ぐ史上4人目の快挙。晴れてプロになったが、その時点でタイトルを目指そうという具体的な目標はなかったという。

「当時はプロになるために必死で、プロになった時点では安堵感が強く、すぐにタイトルに挑戦したいという気持ちはなかったです」。

プロ入りして初めの頃は、棋士としてより高校生活に比重を置いていた。高校を卒業してから本格的な将棋の勉強を始めて、徐々に成果が表れ始めた。しだいに上位の棋士との対戦も増えてくる。プロに入ったときには漠然としていた目標だったが、そういう機会が増え、タイトルを目指そうと思うようになった。

転機が訪れたのは19歳のとき、王座戦でのタイトル初挑戦だ。相手はプロ入り前からあこがれの存在だった羽生氏。5番勝負で先に3勝すればタイトル獲得となる王座戦。3局終わった時点で渡辺氏が2勝1敗とリードするも、そこから羽生氏が追い上げを見せ、惜しくもタイトル奪取とはならなかった。が、翌年には羽生世代のひとり、森内俊之氏から竜王のタイトルを奪った。

「2年連続で挑戦者になったのは、その後の棋士人生を振り返っても、大きいことだったと思います。プロ入り前はあこがれの羽生世代でしたが、タイトル戦など対局数が増え、しだいにそういう気持ちは薄れてきました。今となっては手ごわい相手という印象です(笑)」

コンピュータやネットの発達

現在、40代前半の羽生世代と一回り以上年齢差がある渡辺氏。世代の違いは将棋にどのような影響を与えるのか。「10年単位で将棋の環境は変わってきています。今の40代以上の棋士は若手の時代にコンピュータが普及していた時代ではなく、インターネット対戦などもしていない。しかし、われわれがプロを目指す時点やプロなり立てのときには、そういう環境が整っていたところで羽生世代との違いがあるのではないでしょうか」。

将棋における研究のひとつに「棋譜並べ」というものがある。棋譜とは、プロ同士の対局時の手順記録のこと。棋譜を入手して指し手を再現しながら、新手や新戦法を考えるのだ。渡辺氏は16歳のときにコンピュータを購入して以来、データベースとして棋譜を入手し研究に役立ててきた。それ以前は月に1回、1カ月分のプロ同士の棋譜をフロッピーディスクで手に入れる時代。場合によっては1カ月遅れて棋譜を見ることもあった。そうすると、棋譜を知るのが遅くなり、棋譜解析もどんどん遅くなる。40代以上の棋士が10代、20代のときはそういう環境だった。

一方、ネット環境が充実し手軽に棋譜が入手できるようになったことで、将棋の研究範囲は広がった。昭和の時代の研究範囲は40手ぐらいだったが、今では100手先の局面がどのようになっているかまで突き詰める。「ある程度、研究をしなければすぐに負けてしまいます。棋譜の入手が容易になったことで、勝負において研究(事前準備)が占める割合は大きくなりました。対局していると相手が研究しているかどうかすぐにわかります」。

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