外国人に負けない!"不敗神話"を築いた交渉術 いつでも「次の手」を忍ばせておけ

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Win-Winの提案では、相手がそれをしたときのメリットを強調する。だが、相手がそれをしなかったとき、あるいは、相手が別の行動をとったときのメリットについては(あえて)触れない。しかし、相手にしてみれば、こちらからの提案内容はいくつもの打ち手がある中のひとつにすぎない。もしかしたら、別の選択肢のほうが魅力的かもしれないのだ。

それに気づいた私は、合意に至らなかった場合の代替案を事前に用意するようになった。そもそも代替案がないから、お願いモードになってしまうのである。最初から代替案があれば、いざとなったら合意できなくてもかまわない。そう思うと、強気で交渉できるようになった。お願いモードから脱した結果、逆に、相手から譲歩を引き出すこともできるようになっていったのである。

最後は手持ちのカードが強いほうが勝つ

現在の私は、ビジネス英語で交渉して負けることはほとんどない。それは、交渉が成立しなかった場合の次善策(BATNA)をつねに用意しているからだ。

現在の状況、自分が達成したいこと、達成するために相手に依頼したいこと、相手にとってのメリット、そして相手が動かなかった場合の代替案(BATNA)をセットで考え、頭の中で整理する。実際の交渉の場面では、相手の反応を見ながら用意した案を順次出していくことで、ほぼ100%に近い割合で、当初の目的を達成できるようになった。

BATNAが威力を発揮するのはなにも大掛かりな交渉に限らない。電話やメールといった日常的なやり取りでも有効だ。

1~2分のちょっとした会話であっても、「次の手」を忍ばせておけば、余裕を持って相手と話ができる。いざとなったら「次の手」を開示して、相手をうならせることもできるだろう。

ふだんから一貫してそういうコミュニケーションがとれていれば、あなたに対する信頼感も醸成される。グローバルコミュニケーション成功の秘けつは、小さなロジックの積み重ねなのである。

外国人相手にWin-Winの提案が通じにくいのは、そもそも相手にとっての利害が明確ではないからでもある。こちらがWin-Winだと思っても、相手はそう感じないケースも多い。価値観が多様なので、われわれにとってのメリットが、必ずしも相手にとってのメリットとはならないのだ。

さらに、相手がもっとよい選択肢を持っていれば、そちらを選ぶのは当然だ。だからこそ、グローバルな交渉の場面では、Win-Winに加えて、BATNAも考えておく必要があるのだ。

永井 孝尚 マーケティング戦略コンサルタント

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ながい たかひさ / Takahisa Nagai

慶應義塾大学工学部を卒業後、日本IBMの戦略マーケティングマネージャー、人材育成責任者などを経て、2013年退社。同年、多摩大学大学院客員教授を担当。マーケティング戦略思考を日本に根づかせるため、ウォンツアンドバリュー株式会社を設立。多くの企業・団体へ戦略策定支援を行う一方、毎年2000人以上に講演や研修を提供。2020年からはオンライン「永井経営塾」主宰。著書に60万部超『100円のコーラを1000円で売る方法』シリーズ、15万部超『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』シリーズ(すべてKADOKAWA)など。著書累計は100万部超。

オフィシャルサイト

X(旧Twitter) @takahisanagai

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