日本の威信が掛かる「国策MRJ」の巨大重圧 5度納入延期で先行きに暗雲

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初号機を受け取る予定のANAホールディングス<9202.T>傘下の全日本空輸は、25機(確定15機)発注したMRJの納期遅れによる機材不足に対応するため、機体の退役時期の延長やボンバルディア<BBDb.TO>製プロペラ機3機を追加購入。5回目の遅れで米ボーイング<BA.N>製737―800機4機のリース導入を余儀なくされた。

それでも全日空の平子裕志社長は、MRJの居住性や燃費性を評価し、「ぜひ入れたい飛行機。少し待つが、期待して首を長くして待っている」と話す。

国産機復活の悲願

日本政府の究極的な目標は、第2次世界大戦後に米軍によって解体された日本の航空機産業の復活だ。「YS-11」から約半世紀ぶりとなる国産旅客機を実現し、強固な産業基盤を作り上げるとの悲願がある。

「短期的に儲けることより、長期的に航空機産業が発展してほしい」。MRJを支える政府関係者はこう語る。経済産業省の昨年の資料には、MRJに続き、次世代機、第3世代機の運航を前提にした2060年までの事業戦略図がある。「最初の挑戦は苦労するが、2回目からはずっとやりやすいはずだ」(同政府関係者)。

しかし、政府と業界の期待を一身に背負った国産機MRJが、事業の離陸に手間取っているのはなぜか。

初回の納入延期は主翼材料の変更や顧客の要望による客室拡大など設計の見直しが理由だった。続く4回の延期は、それぞれ詳細が異なるものの、米当局が求める「説明の作法」が壁になった、と関係者は語る。

米連邦航空局(FAA)の基準に則った安全性が保証される型式証明を国から取得するには、完成機の試験や解析だけでは不十分で、最近はその開発プロセスが妥当かを証明する必要がある。だが、MRJはそのプロセスが明文化できていなかった、と三菱航空機の福原裕悟・営業本部営業部長は話す。

例えば、5回目の延期理由の1つとなった電気配線の安全性について、FAAは1996年に起きた米トランスワールド航空機事故や98年のスイス航空機事故の原因とされた不完全な電気配線を防ぐため、2007年に関連する認証基準を強化した。

三菱はその基準厳格化を踏まえ、同年から安全な設計に努めていたが、関係者によれば、その基準に則った共通の設計ルールを持たず、複数の技術者がそれぞれ独自の方法で2万3000本超の電線を配線していた。現在は共通の設計ルールを作り、配線作業をやり直しているために時間がかかっている。

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