フランスでも「EU離脱派」が大統領になるのか 極右ルペン失速、追い込む極左メランション

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マクロン候補は、欧州連合(EU)との関係では、「親EU」の立場を標榜。EU圏の経済・財政担当大臣ポスト新設などを唱える。社会党出身でありながら、法人税引き下げや公務員の12万人削減といった策も提唱しており、同氏いわく「左も右もない」立場だ。

何より39歳という若さを武器に、精力的な選挙戦を展開して幅広い層から人気を集め、一時は大統領の最有力候補とみられていた。しかし、ここへきて、その人気にもやや陰りが見える。「有権者とのコミュニケーションでつまずいた」(ル・モンド紙のフィリップ・メスメール記者)ためだ。1つの例が南米大陸にある仏領ギアナをめぐる発言である。ギアナでは経済停滞などに対する抗議行動が激化してゼネストへ発展。この問題に関連して、同候補はギアナが「島」ではないにもかかわらず、「島」と受け取られるような表現を使ってしまったのだ。

同氏はフランスで「エナルク(enarque)」と称される、グランゼコールの国立行政学院(ENA)出身者。かつては投資銀行のロスチャイルドに勤務し、副社長格にまで上り詰めるなど、ピカピカのエリートであることも敬遠され始めた理由という。昨年の「ブレグジット(英国のEU離脱)」をめぐる国民投票や、米大統領選で盛り上がった反エスタブリッシュメントの追い風は受けにくい。

極左メランションがじわじわ上昇

一方、トップ争いでしのぎを削るルペン氏も、失言が伸び悩みにつながった面がある。同候補は9日にテレビ番組へ出演。ナチス・ドイツ占領下で、フランスの警察官や憲兵約4500人が1万3000人のユダヤ人を拘束した1942年7月の「ヴェルディヴ事件」に触れ、「責任があったとすれば、それは当時の政権であり、フランスには責任がない」などと発言し、ユダヤ人社会の反発を招いた。 

同問題については、ジャック・シラク元大統領などがすでに責任を認め謝罪しているが、「ルペン氏はフランスですでに終わったことと思われていた古い議論を再び持ち出した」(ル・モンド紙)。「反EU、移民排斥」の姿勢を鮮明にする一方、国民戦線を創設した父のジャン=マリー・ルペン氏を党から追い出すなどして、「極右」のイメージを薄めるのに腐心してきた。しかし、今回の発言を受けて他の候補者は「ジャン=マリーの娘であることを誰も忘れてはいない」(マクロン氏)と攻勢を強める。

最近のメランション氏人気も混戦を演出。同氏は最低賃金の引き上げや、年収40万ユーロ超の高額所得層に対する90%の税率適用など、社会的弱者に寄り添う姿勢を鮮明にする。東京でフランス語学校の講師を務める左派支持者のローリアンヌ・フュリーさんは同氏に投票する考えだ。「大企業はほとんど税金を払っていない。そうした状況を変えようとしているのはメランション氏だけ」と語る。社会党のアモン氏の票も取り込む形で上位2候補を猛追している。

移民・難民にも寛容だが、外交面では、北大西洋条約機構(NATO)からの離脱を主張。EUに関しては「離脱ありき」というわけではなく、離脱の是非を問う国民投票実施を公約に掲げるルペン氏と一線を画すものの、「話し合いをして歩み寄ることができなければ脱EUも辞さない」のが、基本的なスタンスだ。

「彼の演説はダイナミック」。メランション氏はホログラム映像などを駆使した演説やSNSの積極的な活用などで若者の心もとらえる。ディベートでも存在感を誇示。4日に行われた11人の立候補者全員によるテレビ討論では、「宗教に関する話はもういい加減にしてくれ。あなたの気まぐれに付き合う必要はない」などと、ルペン氏を厳しく批判した。同番組をきっかけに、支持率上昇にはずみがついた格好だ。

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