くら寿司の「敗訴」に見える法廷闘争の逆効果 かえって「悪目立ち」してしまうこともある

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まず、くら寿司がソネットを訴えたのは、2002年に施行されたいわゆるプロバイダ責任制限法(正式には「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」といいます)による制度を利用したからです。

企業や個人がインターネット上に悪口を書かれ、その削除や損害賠償を請求しようとしても、通常被害者は書き込みをしたのがどこの誰であるのかを特定することができません。

そこで、この法律によって、違法な書き込みにより権利侵害を受けた被害者は、サーバーや掲示板を提供しているプロバイダ等の事業者に、違法な書き込みを削除することや違法な書き込みをした人物の情報を開示するよう求められることとしたのです。

違法な書き込みがあった場合、プロバイダ事業者は被害者の請求に従って書き込みの削除をしなければ責任が問われます。一方で書き込みが違法でないにもかかわらずプロバイダ事業者が勝手に書き込みを削除したり、書き込みをした人物を特定して個人情報を開示したりしてしまうと、今度は書き込みをした人物から責任を追及されてしまいます。

そのような板挟みの立場にあるソネットは、本件では当該書き込みを違法とはいえないと判断し、書き込んだ人物の情報開示を拒みました。このような経緯があったため、法廷闘争に発展したのです。

名誉毀損が成立するケースとは

では、どのような書き込みが名誉毀損として違法と評価されるのでしょうか。最高裁の判例から引いてみましょう。

まず名誉とは、「人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な社会的評価」のことであり、この社会的評価を低下させる行為が民法709条に基づいて名誉を毀損させる不法行為を成立させ、損害賠償の対象ともなります。

ただし、社会的評価を低下させる行為であっても

ア) 当該情報が公共の利害に関する事実であること
イ) 当該情報の掲載が、個人攻撃の目的などではなく公益を図る目的に出たものであること
ウ) 当該情報が真実であるか、または発信者が真実と信じるに足りる相当の理由があること

 

の3つの要件をすべて満たした場合には、行為の違法性がないと評価され名誉毀損が成立しません。

さらに、社会的評価を低下させる事実を述べた場合ではなく、ある事実を基礎として意見ないし論評を表明したという場合も上記ア)~ウ)の要件を満たしていれば、表現が人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものでないかぎり名誉毀損としての違法性はないとされるのです。

通常、企業に対する口コミやレビューは、多くの人の利害に関することですからア)の要件を満たしますし、純粋にその企業を攻撃する目的でないかぎりはほかの人に役立つ情報になりますのでイ)の要件も満たすことになります。

次ページ今回の判決は…
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