自民党「大宏池会」構想に渦巻く利害と思惑 キングメーカー狙いの麻生氏への疑心暗鬼も

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こうした動きに対し、「宏池会の嫡男」を自任する岸田文雄外務相は4月13日、「大宏池会」構想について、「派閥は党の活力という点で意味があり、さまざまな派閥と協力について話し合うことはどんどんやるべきだ」と前向きとも見える考えを示した。しかし、周辺には「大宏池会を作れば政権が取れるというのは甘い」と漏らすなど本音では慎重だ。ポスト安倍で岸田氏の最大のライバルとみられる石破茂前地方創生担当相(石破派会長)も「政策そっちのけの数合わせは、幻滅することだ」と牽制する。

再結集で「保守本流」が「保守傍流」に並び立つ

宏池会は故吉田茂元首相の「軽武装、経済重視」の基本理念を継承してきたことで「保守本流」と呼ばれてきた。自民党派閥では最も長い歴史を持つ文字どおりの名門派閥で、吉田氏直系の池田勇人氏をはじめ、大平正芳氏、鈴木善幸氏、宮澤喜一氏(いずれも故人)の4人の領袖(りょうしゅう)が首相・総裁の座を射止めた。

これに対し、今は最大最強を誇る清和会も源流をたどれば安倍首相の祖父でもある故岸信介元首相の系譜を継ぐ「保守傍流」との位置づけで、政治史から見ると前者が「リベラルなハト派」、後者が「保守主義のタカ派」との色分けともなる。これが吉田氏の孫でもある麻生氏が「大宏池会」による「疑似政権交代」を掲げるゆえんでもある。

1957年に誕生した宏池会は池田派→前尾派→大平派→鈴木派→宮澤派→加藤派→(2派閥に分裂)→古賀派と代替わりして現在の岸田派に至る。その間、故加藤紘一元幹事長が率いた加藤派への移行時に河野洋平元衆院議長(元自民党総裁)を支持する麻生氏ら河野グループ(現麻生派)が離脱したが、本格的な分裂は2000年11月の「加藤の乱」によるものだ。加藤派と故堀内光雄元総務会長をリーダーとする堀内派に分裂し、互いに「宏池会」を名乗って反目し合った。

その後、加藤派は谷垣派に、堀内派は古賀誠元幹事長をリーダーとする古賀派に衣替えし、2008年には麻生派抜きの「中宏池会」として両派が再合流したが、谷垣総裁の再選をめぐる対立で谷垣グループが離脱した。こうした経緯から永田町では岸田派が宏池会の「本家」、谷垣グループが「分家」で、麻生派は「外様」との位置づけだ。

ちなみに、河野、麻生、谷垣3氏はいずれも党総裁を務めたが、首相になったのは麻生氏だけ。河野、谷垣両氏は野党時代の総裁で、目前で首相の座を逃した点で共通する。だからこそ現在の宏池会は"嫡男"の岸田氏の首相・総裁就任を悲願としているわけだ。

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