「リスク回避による円高」の根拠はかなり薄い 本来「朝鮮半島の有事」は円安要因のはず

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これは、アフガニスタン攻撃の1日前の12日(水)に、トランプ大統領が、ウォール・ストリート・ジャーナル紙とのインタビューで、「ドルは強くなりすぎている」と語ったことが、大きいと考える。

すなわち、当該発言が、すでに円高に向かっていた為替相場の背中を蹴り倒す形となり、一段の円高を招いていた。この過程で米ドルの買い持ち(円の売り持ち)が相当量投げられて掃除されてしまい、一方さらに新規の円買いを大いに積み上げるには投機家も躊躇したため、円高のスピードが衰えた、ということだったのではないか。

もちろん、北朝鮮で実際の戦闘状態が生じれば、少なくとも短期的には、日本の株式市況は、円相場とともに、大波乱に見舞われるだろう。とは言っても、東証1部全体の予想PER(株価収益率、2017年度の予想利益に基づく)は、安倍政権発足後のレンジの下半分に位置し、やや割安となっている。

円高に歯止めがかからなければ、PERの計算に用いている予想利益の下方修正が懸念されてしまい、割安との議論が後ろ盾を失う。しかし、108~109円水準(あるいはそれより少しの円高)であれば、2017年度の増益シナリオが覆るほどではない。実際、日本からの輸出数量も、世界景気の持ち直しのおかげで増勢にあり、日本企業の輸出売り上げについては、円高により価格面から逆風でも、量的な輸出増が追い風となっている。

このため、今週の日経平均株価は、1万8200~1万8700円と、北朝鮮情勢に対する警戒感を有しながらも、大きな底割れは回避する相場付きを見込む。

有事の場合、市場における流動性の枯渇は留意すべき

前述のレンジは朝鮮半島有事が今週発生することを前提としていない数値であり、有事となれば、当面は、株価がレンジ下限を大きく突き破ることになるだろう。その場合の下値メドは、わからない。

ただ、下値が見えないながら言えることは、有事の場合は、市場で流動性が枯渇する事態を頭に置くべきだということだ。つまり、売りたいところで売れないリスクを考えた方がよいだろう。

株式市場でも為替市場でも、少なくとも短期的には値がつかない状態が続く恐れはあり、その間に気配値がどんどん動いていく、という事態もありうる。その場合でも、株式の現物保有や、外貨投資の場合では外貨預金や外株・外債、外貨建てファンドなどの保有であれば、ずっと抱えて耐えることはできる。このため、朝鮮半島有事を想定するなら、FX取引、CFD(差金決済)取引、信用取引のような、レバレッジをかけた取引の場合は、流動性の枯渇リスクにも留意すべきだ。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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