日本人が「残業」から一向に逃れられない理由 この複雑な構造を理解しなければ解決しない

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この言葉に抵抗感のある人、いや嫌悪感を抱く人さえいることだろう。ただ、日本人が残業を美談化してきたのもまた事実である。日本経済新聞の「私の履歴書」「私の課長時代」などの、偉人のライフ・ヒストリー・コラムにおいては、経営者たちが若手社員時代にいかに残業をしたかという自分語りが展開される。

「残業」が「美談」として紹介される側面も

2000年代前半にブームとなり、関連する書籍、DVDなどもヒットしたNHKの「プロジェクトX」は、言ってみれば「過労死・残業礼賛ドキュメンタリー」である。「情熱大陸」「プロフェッショナル 仕事の流儀」「ガイアの夜明け」「カンブリア宮殿」などの、ビジネスパーソンや企業にスポットを当てた番組だって、そうだ。このように「残業」が「美談」として紹介される側面もある。

誤解なきように言わせていただくと、私は残業を礼賛しているワケではない。しかし、残業は、日本における雇用システム、特に従業員の雇用契約、仕事の任せ方から考えると必然的に発生するものである。残業は、人手不足を補う意味や、仕事の繁閑に柔軟に対応するものでもある。日本人の長時間労働は複合的な構造問題なのだ。

一例を挙げよう。日本人はかねてから「働き過ぎだ」という国際的な批判もあって、長時間労働を抑制する制度改正が行われ、労働時間は抑制されてきた。1987年に労働基準法が改正されたときには(翌1988年施行)、それまで1週間に48時間だった法定労働時間は40時間に下げられた。

その「効果」は数字に現れている。1990年時点で1人あたり2064時間だった日本人の総実労働時間はほぼ右肩下がりで減少。2015年においては1734時間となった(厚生労働省「毎月勤労統計調査」)。

一方、読者の中には「仕事の絶対量も多く、顧客からの急なオーダーもある。残業は減らせない」などと思っている人も少なくないのではないか。日本の雇用現場は相変わらず、長時間労働にあえいでいる。

先のデータには盲点がある。これはいわゆる正社員として雇われている正規雇用者のみではなく、派遣やパート、アルバイトなどの非正規雇用者も含まれている。

日本における非正規雇用者の割合は1984年時点で15.3%だったが、サービス業を中心とした非正規雇用者の活用推進、派遣法の改正などにより徐々に増加し、2000年代前半には30%を突破(総務省「労働力調査」)。その後も右肩上がりで、厚生労働省が2015年11月に発表した「就業形態の多様化に関する総合実態調査(2014年度版)」によると、民間事業者に勤める労働者のうち非正規雇用者の占める割合が40.5%に達したことが明らかになった。

非正規雇用者が段階的に増えたことにより、労働時間の短い労働者が増えたことを考慮に入れなくてはならない。

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