日本では「期待に働きかける」政策は効かない 水野温氏元日銀審議委員に「政策課題」を聞く

拡大
縮小

――黒田総裁の任期は2018年4月までですが、安倍首相は3選を目指してまだ続けると言っています。黒田総裁の次はどうなりますか?

安倍政権にとっては長期金利を安定させておくことが重要になってくる。ただ、ここまで金利が低くなくてもよいはずなので、副作用の大きいマイナス金利政策はやめたほうがいい。黒田総裁の続投説もあるが、黒田総裁が大胆な金融緩和の出口に踏み切らずに退任する可能性もある。持続性のある金融政策の枠組みをどう考えるか、ポスト黒田の5年間は重要になってくる。

安倍政権は法人税率の引き下げで製造業の空洞化を食い止める、という税制改革を打ち出したが、法人減税で増えた余剰利益は、内部留保か、クロスボーダーのM&Aや配当に使われて社外へ流出してしまう。香港やシンガポールなどの金融センターの立地競争力が高い理由は、法人税だけでなく個人所得税の税率の引き下げであり、それによって、雇用機会を増やしている。

財政政策、成長戦略による「働き方改革」も、成長産業での雇用機会増加、有能な役職員をひきつけるための賃金上昇になるか不透明だ。そのような意味で、アベノミクスの総点検もやらなくてはならない。

皮肉ではなく、黒田総裁の5年間の成果は「金融緩和だけではデフレから完全に脱却できない」との世論を形成したことだ。安倍政権がまだ続くとすれば、アベノミクスの一丁目一番地である金融政策を含めマクロ経済政策の検証は甘くなってしまうだろう。

2022~2023年度以降、財政赤字は発散経路へ

――「財政規律の弛緩」というお話がありました。2017年4月に予定されていた消費税率10%への引き上げは2019年10月に延期しましたが、これも実行は危ぶまれています。世界の潮流は緊縮財政から財政拡大へ、ということだと思いますが、日本では財政出動を過去に続けてきた経緯があります。

トランプ政権が打ち出しているように米国のようなインフレ期待が高い国で財政出動をしたら、成長率が上がってインフレになるかもしれない。だが、日本の場合には、労働力人口が減っていく中で、縮小均衡に入ってしまい、潜在成長率が緩やかに下がっている。そうした中では、物価を持ち上げる力もなかなか維持できない。

団塊の世代が75歳を過ぎる2022〜2023年度ぐらいから、財政は税収の伸びを支出の伸びが上回る形になり、財政赤字は発散経路に入っていってしまう。

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