「シリア攻撃」に中国と北朝鮮が警戒する理由 米中首脳会談の直前に行われた意味はある?

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シリアへの攻撃が北朝鮮に影響を及ぼしたかどうかは、トランプ大統領と習主席によるこの問題に関する意見交換の内容報告では明らかにされなかった。この数週間、米国の政府関係者は、外交交渉や経済制裁による圧力が功を奏さなければ、北朝鮮への武力行使の可能性を高めようとしてきた。米国としては、たとえば北朝鮮の「命綱」となっている国境での貿易を中断するなどして、中国が北朝鮮に圧力をかけることを望んできた。

しかし、首脳会談終了後、ティラーソン国務長官が読み上げた会談内容では、両国ともこれまでの立場からほとんど変化はなかった。ティラーソン国務長官によると、トランプ大統領は習主席に「われわれはそれぞれの立場で(北朝鮮に)取り組むよりほかないが、それは北朝鮮にとって新たな問題になりうる」と告げた。「中国がわれわれに協力できないということであれば、われわれは独自で行動を起こすつもりだ」(ティラーソン国務長官)。

中国にとって「北朝鮮問題」より大事なのは

米中首脳会談に関する中国国営メディアの報道では、北朝鮮に関する言及はいっさいなく、「何1つ合意に至ったものがなかった」と報じられるのみだった。北朝鮮への武力行使は米政権のオプションの1つであると考えられていた中で、シリア攻撃が行われたことは、トランプ政権による北朝鮮への武力行使の準備が整ったというメッセージを与えたかもしれない。ただし、核保有国を目指す北朝鮮は、内戦に見舞われ、通常兵器しか保有していないシリアとは別物だ。

「北朝鮮はシリア攻撃の意味を、米国の自国の政策に照らし合わせて注意深く検証していると思う」と前述の国務省元高官は語る。「中国政府もまた、北朝鮮の動きに合わせるだろうし、仮に北朝鮮が(シリア攻撃に)当惑し、若干守りに入ったとしても中国がこれに過度に反応することはないだろう」

トランプ大統領という、米政権で権力を持つ人物と対面したことで、中国首脳陣は当面、トランプ政権の動きを注意深く見守るだろう。しかしその後は、シリア攻撃が新たな危険性を生み出す可能性が浮上したときのみ、米国の動きを気にするだろう。中国にとっては、北朝鮮問題よりも、貿易問題のほうがはるかに重要だからだ。

しかし、中国はそう長いこと安心していられないかもしれない。トランプ大統領は米中首脳会談終了後、次のようにツイートしていた。「すばらしい友好と友情が育まれた。しかし、貿易関係がどうなるかは時間が経たないとわからない」。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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