鉄道マンが「見えない」を体験して見えた課題 体験すれば広がる?視覚障害者への「声かけ」

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電車に乗る際の案内方法を示す盲導犬協会のスタッフ(左)と参加者たち(撮影:風間仁一郎)

この点について山口センター長は「視覚障害者が歩くとき、周囲に人がいるといないとでは安全性がまったく違う。もちろん可能なかぎり人は配置してほしい」としつつ、「全部の駅にホームドアを設置するとか、全部の無人駅をなくすというのは事業者にとって過重な負担になる。妥協点はどこかで見つけなければいけない。どこが落としどころになるか、そこが1つの課題になると思う」と指摘する。

「見えない」実感で見える必要性

国土交通省の「駅ホームにおける安全性向上のための検討会」は昨年12月末に、1日の利用者数が10万人以上の駅のうち条件を満たしている駅については2020年度までにホームドアを整備するといった「中間とりまとめ」を発表した。この中には、ホームドア未設置駅では「駅員による誘導案内を実施する」「危険時に視覚障害者が明確に気づく声かけ」など、ソフト面での対策も盛り込まれている。

だが、ソフト面での対策充実にもコストがかかり、なかなか進まないのも事実だ。そんな中で「われわれができることは、鉄道事業者の意識を向上させ、率先して声かけを行ってもらうことで、社会全体の意識を向上させること」だと山口センター長はいう。

今回のセミナーでは、視覚障害者の案内方法だけでなく、参加者が実際に「見えない状態」を体験することで、どのような案内や声かけが必要なのかを実感している様子が見られた。鉄道事業者の関係者はもちろん、一般の人々もこのような体験ができる機会が幅広く設けられれば、視覚障害者への声かけの必要性を実感できるのではないだろうか。危険な場所は駅ホームに限らないことを考えれば、一般市民の果たすべき役割は大きい。

山口センター長によると、鉄道事業者による今回のようなセミナーへの協力依頼は昨年夏の青山一丁目での転落事故以来増えているという。今回も関東の大手鉄道会社数社が視察に訪れており、視覚障害者の安全に対する意識は少しずつ高まってきているようだ。どうしても遠慮しがちになってしまう視覚障害者への声かけ。一般利用者がその「一歩」を踏み出しやすくするための方策も、ハード面での対策などと同様、さらに検討されるべきだろう。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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