てるみくらぶ、異常過ぎた「赤字販売」の結末 債務超過125億円に粉飾、無謀だった拡大戦略

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2010年、JALは経営破綻し、不採算路線を絞り込んだ。ANAも座席数が500を超えるB747より座席数が少ない「B777」や、さらに座席数を250席前後まで絞り「旅行会社キラー」(業界関係者)ともいわれる「B787」などを次々と導入。単価を上げても座席を埋められる戦略にシフトし、収益性の確保を強烈に進めた。

てるみくらぶが異質だったのが、それでも安売りをやめないことだった。そもそも、旅行業界は参入障壁が低く、差別化が難しい。最大手のJTBでも営業利益率1.2%、HISでも旅行事業は1.9%に過ぎない。

安売りだけが差別化だった

てるみくらぶが顧客に送っていた会員誌。編集・制作を請け負っていた会社も倒産した(被害者提供)

HISがハウステンボスやホテルなど周辺事業へ、JTBや近畿日本ツーリストが地域振興やスポーツ旅行へ進出し多角化しているのに対し、てるみくらぶは徹底的に安売りをするという"差別化"路線を突き進んだ。

そして被害者数が8〜9万人と膨れあがったのは、てるみくらぶの”悪あがき”の影響が大きい。

旅行業界の場合、顧客から受け取った現金を資産側に、負債側には前受金を計上してBSを調整する。旅行業界関係者によれば、前受金は売上高の通常1~2カ月程度になるという。

てるみくらぶの場合、関係者向けに公表していた2016年9月期決算は、売上高195億円、BSは純資産が4.6億円(自己資本比率7%)の資産超過だ。この時点の前受金は17億円程度で、同業他社と比べて、さほど違和感はない。

だが、裁判所に提出された文書によれば、この決算書は粉飾された疑いが濃厚だった。決算書で資産側の未収収益22億円、負債側の前受金17億円とされていたものは、あくまで「財務アドバイザーによる試算」とされた項目によれば、未収収益は実態が不透明で2億円に、前受金の実態は70億円で、74億円の債務超過だったという。

さらに売上原価や販管費も過少計上し、営業黒字に見せかけた対外的な説明用のほか、税務署提出用の決算書を作成。ただ実態は大きな営業赤字で、税務署提出用の資料ですら、内部の管理システムの数字と乖離していた。2016年9月期時点で15億円、2017年10月から破綻までに36億円の赤字を垂れ流していた可能性がある。

資金繰りに詰まったのに、他社よりも価格的魅力の大きい欧州やクルーズといった商品を売ることで、資金を集めて、次の旅行手配料や広告費に費やしてしまう。まさに自転車操業を行っていたわけだ。

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