グランクラスより儲かった国鉄の「特別座席」 1カ月ちょっとで元が取れた「パーラーカー」

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ここに挙げた各案のうち、最も初期投資額の多い第3案は話し合いの初期の段階で不採用となった。残る2つの案では第1案が有利であるが、「つばめ」「はと」にパーラーカーを連結しなくてよいかどうかの判断は難しい。このあたりの経緯は次の発言からうかがえる。

G.≪こだま≫よりハイクラスのものといつても、どんな車をつくるのか。2等も3等もいま以上デラックスのものを作る必要はない。ぜいたくするといつても、せいぜい食堂車と展望車に代わるべきパーラー・カー位のものではないか。第2案の程度で全部同一編成として新製車を減らした方がいい。(前掲書、130ページ)

 

当然のことながら、東海道新幹線開業後の転用方法についても話し合われた。

C.新幹線ができたら、これらの特急用電車(筆者注、151系)は無駄になるのではないか。その転用についてどう考えているか。
A.新幹線の高速列車に接続する山陽線の特急、東北・上越・常磐・日光線などの電化区間にも使えるし、或いは新幹線ができるまで、もう充分稼いでいるから、格を落して旧東海道線の準急などに使つてもいいぢやないか、必要あれば交直両用電車に改造する方法もある。(前掲書、130ページ)

 

「もう充分稼いでいる」という裏付けも企画委員会には示されている。24両の151系を「こだま」として1958年11月1日から1月31日までの3カ月間使用した実績から年間の収入を推定したところ、12億1900万円(現在の貨幣価値に換算して約69億5000万円)と算出された。

パーラーカーはどれだけ稼いでいたのか

一方、151系24両分の製造費用や線路や施設の改修費などからなる初期投資額は11億5400万円(同約65億8000万円)、運転にまつわる費用は2億8000万円(同約16億円)であったという。したがって、初期投資額は収入から費用を差し引いた9億3900万円(同約53億6000万円)の利益で償還することとなり、よって償還までの期間は449日、つまり約1年2カ月余りとなる。

パーラーカーや一等車(1960年5月31日までは二等車。現在のグリーン車)、そして三等車(1960年5月31日までは三等車。現在の普通車)をそれぞれの収入に基づき、151系の製造費を償却するまでの期間を算出してみよう。

国鉄営業局旅客課の大倉照二氏が記した「急行列車利用状況調査の結果について」(『国鉄線』1960年12月号、交通協力会)によると、国鉄は1960年7月5日・6日の両日、「つばめ」1往復の乗車状況を調査している。結果は1本の列車当たり、パーラーカーを含む一等車の平均乗車キロは454.2キロメートル、乗車率は81パーセント、二等車の平均乗車キロは454.1キロメートル、乗車率は99パーセントであった。

パーラーカーで454.2キロメートルを乗車した場合、運賃は2080円、特急料金は1440円、特別座席料金は1800円、座席指定料金は200円の計5520円(現在の貨幣価値に換算して約3万1500円)だ。定員18人に対して乗車率は81パーセントであったのだから、15人が乗っていたことになる。

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