震災から1年、私たちにできること
主催:朝日新聞社
後援:熊本県、特定非営利活動法人全国災害ボランティア支援団体ネットワーク、東京熊本県人会、東洋経済新報社
協力:イオン、サントリーホールディングス、日本航空
【対談】創造的復興へ逆境の中にこそ夢がある
熊本県知事の蒲島郁夫氏は、熊本地震の教訓として、まず初動段階で人命救助のための出動要請を迅速に行なう必要性を指摘。避難所生活、仮設住宅生活の段階では、被災者の期待と現実とのギャップが大きくなる前に早めの対応を心がけてきたと説明した。復興は、単に元の姿に戻すだけではなく、将来の発展につながる「創造的復興」の視点を強調。官民が連携し、工業港をクルーズ船の母港として整備する八代港などを例に、九州全体の地方創生への貢献も目指す考えを示した。また、全国の人々や企業から「善意の爆発」とも呼ぶべき多くの支援、ボランティアの申し出があったことについて、「お申し出をいただいた皆さんに感謝するとともに、支援を受けるわれわれの受援力不足も感じました」と述べ、被災直後は、震災対応に熟練した災害ボランティアや、被災経験のある自治体の応援が重要な役割を果たしたと語った。さらに、県内外を問わず、「気軽に観光に訪れてもらう旅行ボランティアをお願いします」と呼びかけた。聞き手を務めた、東京大学名誉教授の御厨貴氏も、今回の震災経験を次の災害に活かすことが大事になるとして、「旅行で熊本を訪れ、見聞きしたことが、被災した時に役立つかもしれない」と語った。
【討論1】被災地で企業ができること
イオンリテールの梅本和典氏は、小売業とは、人とのつながりが基盤の「人間」産業、地域に根ざす「地域」産業であるとの理念の下で、同社が多くの自治体などと防災協定、包括連携協定を結んでいて、熊本地震直後も、日本航空や自衛隊と連携して必要物資の輸送を実施したことを説明した。本業では、店頭のほか、移動販売車、仮設店舗も使って販売事業を早期に再開し、日常をいち早く取り戻すことに注力した。また、店舗は地域のライフラインと考えて、事業継続計画を整備。千葉本社以外に、愛知に防災センターを設け、災害時の本部機能分散も進めている。「いざという時の行政、提携企業とのソフト面の心のつながりを築くため、現場活動を地道に積み上げたい」と述べた。
サントリーホールディングスの福本ともみ氏は、熊本県に生産工場を持つ<地元企業>として復興支援に取り組むべく「サントリー水の国くまもと応援プロジェクト」に基づく支援活動について三点説明した。一点目は、被災された方々の心と体の支援を同グループの文化・芸術・スポーツ活動を通じて行うこと。二点目は、地元財団や大学とともに「サントリー熊本地下水みらいプロジェクト」を立ち上げ、同県の産業基盤であり県民の生活を支える地下水の持続可能性に貢献していくこと。三点目は、ビール類の売り上げの一部を熊本城復旧のために寄付するなどの事業を通じた支援であり「『ずっと、あなたと、熊本と』のメッセージのもと地域の皆様に寄り添った、息の長い支援をしてまいります」と話した。
日本航空の藤田直志氏は、企業理念と行動指針「JALフィロソフィ」をベースにした支援について語った。混乱する震災直後の対応は「人間として何が正しいかで判断する」と、現地との連絡を密に「現場主義に徹する」という二つのフィロソフィに基づいたと解説。災害時の協定を結ぶイオンとの連携では、イオンに担当社員を派遣することで情報確認、輸送物資の調整がスムーズになったと振り返った。また、被災地と本社の間には意識のズレが生じやすく、現地情報収集が重要と強調。被災者の声を聞く復興応援研修の際に「支援を受けるだけでなく、自ら何かをしたい」という声を聞いたという藤田氏は「被災者と同じ目線で支援に取り組むことが大事」と訴えた。