シリア化学兵器攻撃で突入した無秩序な世界 化学兵器禁止条約は無意味なのか

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アサド政権とロシアは、トランプ政権は(オバマ政権同様)シリアへの長期的な介入の意欲も、その戦略もないため、軍事的行動を起こす意思はないと踏んでいたのだろう。

皮肉なことに、化学兵器が政治的に有効的な武器になり得るかをシリアが証明してしまったのと同時に、国境を越えたイラクではイスラム国が戦場での自分たちの影響力が限られていることを理解し始めている。人権保護団体や合同軍によると、昨年の9月と10月、そして先月にも比較的原始的なガス攻撃があり、少数の人がこの犠牲になったという。

武装グループによる化学兵器と生物兵器による攻撃に対する懸念は、この数十年間ずっとあったが、こうした攻撃は極めてまれで、また多くの場合あっても効果がなかった。

化学兵器開発における最大の脅威は?

専門家によると、アルカイダもイスラム国も化学兵器や生物兵器を入手しようとしているが、両組織ともこれを優先事項にはしていないという。最近のブリュッセルやパリ、あるいは先月ロンドンで起きた攻撃のように、こうした武装グループは、トラックやナイフ、火器といった単純な武器を利用するようになっている。

ただし、いつまでもそうとは限らない。日本のカルト団体であるオウム真理教は、生物兵器開発に失敗した後、サリンの製造に成功。1995年に東京の地下鉄への攻撃に使用して、13人を殺害し、さらに数千人を負傷させた。専門家によれば、化学物質の散布方式をより優れたものにできていたなら、死者数は大幅に増えた可能性があるという。

しかし、4日にシリアで起こった攻撃については、化学兵器開発の最大の脅威は武装グループではなく、こうした兵器の威力を試したいと考えている政府を抱える国である。これは、米国もほかの西側諸国もどう対処してよいのかわかっていない、厳しい現実である。

著者のピーター・アップス氏はロイターのグローバル問題のコラムニスト。このコラムは同氏個人の見解に基づいている。
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