「いきなり!ステーキ」NY1号店大成功のワケ アメリカ人は「立ち食い」をしないはずが…

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ライスの周囲に、ステーキの端肉をダイス状にカットして並べた「ペッパーライス」(写真提供:ペッパーフードサービス)

原価率が低い分、肉も日本のものより質を上げることができた。
「日本では、米国産、オーストラリア産、国産を部位によって使い分けていますが、ニューヨーク店では、すべて米国産牛を使用します。それにより、関税がゼロ、輸送費、輸送時間も大きく削減されます。日本で使用している牛肉より低コストで高品質な牛肉を提供することができるため、米国の中でも高品質なオーロラビーフを使用しています」(川野氏)

また基本的にウェルダンの文化であるため、店内に「レアがおすすめです」と表示した。やはりウェルダンにこだわる人もいるが、多くの人には「レアもフレッシュでいい」と受け入れられているそうだ。

人気のメニューは、日本と同じくリブロース(300グラム当たり27ドル)。それから、ペッパーライス(6ドル)が大人気だそうだ。これは、ペッパー(コショウ)などで味付けをしたライスの周囲に、ステーキの端肉をダイス状にカットして並べたものだ。つまり、ペッパーフードサービスの別業態、ペッパーランチのメニューとほぼ同じということになる。

「これなら、ペッパーランチもニューヨークに進出できるのではないかという感触を得ました」(川野氏)

また、米国人はたくさん食べるイメージがあるが、1人250~350グラムぐらいで日本と変わらない。3割が女性客で、女性を含め1人客も多いという点も、日本と同様だ。違いは、ワインがよく出るぐらいとのこと。

今回のいきなり!ステーキの成功を受け、一瀬氏は現在、軸足を1本ニューヨークに移し、日本に20日、ニューヨークに10日、といった生活を送っているという。まずはニューヨークに年内10店舗を目指し、米国に的を絞って海外展開を進める予定だ。ペッパーランチの進出も視野に入れ、3年後にナスダックへの上場を目標としているという。

日本で進めている戦略は、他業種とのコラボレーションなどによる裾野の拡大。ちなみに先般のことだが、ニッスイから3月1日に発売した「いきなり!ステーキ監修ビーフガーリックピラフ」が、予想の5倍売れ、販売態勢を整えるために一時販売停止しているという。

ソースの消費量が日本の「倍」

ニューヨークではまだ他企業とのコラボまで考えていないが、「いきなり!ソース」の小売りを構想しているそうだ。というのも、世界的に通用する味「TERIYAKI」を連想させるためか、ソースの人気が非常に高いためだ。

「ソースを使う量が日本の倍なんです。単に容器が扱いにくいということなのかもしれませんが、皆さん肉がびしゃびしゃになるほどにかける。ただ、味を気に入ってくださっていることには間違いがないので、徳用サイズにして、店頭やネット、スーパーなどで販売すれば売れるのではないかと考えています」(川野氏)

ステーキの本場ニューヨークで、同店が受け入れられるか。構想の時点から、運営するペッパーフードサービス自身も勝負を懸け、周囲も固唾(かたず)をのんで見守ったところであった。しかしフタを開けてみれば、日本と同じビジネスモデルが何の問題もなく通用してしまった。業界のプロが考える「~でなければならない」という固定観念は、消費者にとってはあまり意味がないのかもしれない。またしても、既成の枠を飛び越えてしまう、一瀬氏の信念の勝利となった。

圓岡 志麻 フリーライター

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まるおか しま / Shima Maruoka

1996年東京都立大学人文学部史学科を卒業。トラック・物流業界誌出版社での記者5年を経てフリーに。得意分野は健康・美容、人物、企業取材など。最近では食関連の仕事が増える一方、世の多くの女性と共通の課題に立ち向かっては挫折する日々。contact:linkedin Shima Maruoka

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