「企業努力」による保険料の引き下げも必要だ 「11年ぶり保険料改定」に感じる疑問

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一方で、投資などには抵抗がある向きに、手堅くおカネが増やせる預け先があるのは、悪いことではないだろうとも思うのです。安定的に高収益を上げられる部門がある企業が、収益性より顧客拡大を重視した商品を提供するイメージです。どんな業界でも実行されていることなのではないか、と納得できるのです。

危険差益など、保険会社の収益を語る際、忘れてはならないのは、保険料に見込みで含まれている「経費」のことでしょう。仮に、ぜいたくや無駄が疑われる水準の経費を保険料に含ませていても、相当額を使ってしまうと差益は発生しないからです。

保険の商品設計等にかかわる専門家によると、個人保険の新契約件数が最も多い「医療保険」の場合、保険料の30%程度が保険会社の経費に回る見込みで、価格設定が行われているそうです。

投資信託では、顧客から預かっているおカネから0.2%程度の費用が引かれ、運用されている商品もあることを思うと、30%はいかにも高い感があります。もちろん、1度に100万~1000万円単位のおカネを預ける人もいる投資信託と、月々数千円であることが多い医療保険にかかる経費の割合を比較するのはどうか、と考えたりもします。

保険料に含まれる経費の割合は高すぎるのでは?

それでも、たとえば、費用が0.2%引かれる「<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド」の純資産総額は448億円(4月17日現在)です。保険会社の場合、資産総額ではなく、単年度の保険料等収入が数千億円を超える会社は珍しくありません。集まるおカネの総額を考えると、やはり、保険料に含まれる経費の割合は高すぎるのではないか、という疑問がぬぐえないのです。

多額の経費がかかっていると推察される例としては、対面販売を行っている営業職員の人件費があります。2011~2015年までの5年間に大手4社は、計15万4000人強の営業職員を採用しています。これは2010年末の4社の在籍者総数15万7000人に迫る数です。ところが、2015年末の在籍者数を調べてみると2010年度末から600名近く減少しています。

数字のうえでは5年間で全員が入れ替わるようなことになっているのです。大量採用と大量離脱は、1960年代から指摘されている問題です。外資系や損保系の保険会社でも人材の定着率は低く、平均勤続年数は10年に届かないところが大半です。

消費者には、定着しない人材の採用や育成にかかる経費が見込みで保険料に反映され、実際に費消されている可能性を想像してみてほしいと思います。組織のあり方を改善できない管理部門などが責任を取るべきであって、加入者に負担させるのはいかがなものか、と考える人がいてもおかしくないでしょう。

また各社の事務部門が都心の一等地などにあることも疑問視されていいと思います。海外での勤務が長かった保険会社の人によると、価格競争が激しいアメリカなどでは、通常、収益を生まない事務部門は地方にあるそうです。

今回、保険料改定に関するニュースのなかで、筆者が好感を持ったのは、アクサ生命が、事業費の引き下げを理由に、目覚ましい水準ではなかったものの、一部の商品の保険料を下げていることでした。読者の皆さまにも、保険会社の経費の見直しに関心を持っていただきたいと思います。

後田 亨 オフィスバトン「保険相談室」代表

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うしろだ とおる / Tooru Ushiroda

1959年、長崎県出身。長崎大学経済学部卒。1995年、アパレルメーカーから日本生命へ転職。営業職、複数の保険会社の商品を扱う代理店を経て2012年に独立。現在はオフィスバトン「保険相談室」代表として執筆やセミナー講師、個人向け有料相談を手掛ける。『「保険のプロ」が生命保険に入らないもっともな理由』(青春出版社)ほか、著書・メディア掲載多数。

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