日本の女子高生は未来技術を先取りしていた 英エコノミスト誌が「2050年の技術」を予測

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それは、欧米の消費者が同じような機能の携帯端末を買えるようになる、数年前のことだ。

『WIRED』誌にはしばらくの間、「日本の女子高生ウォッチ」なるコラムがあったほどである。今日、日本の女子高生(ガラケーを最も積極的に受け入れたユーザー層)のしていることが、明日には世界中に広がると踏んだのだ。

これから台頭するテクノロジーや行動を見抜くのは

限界的事例は予想もつかない場所で生まれることもある。たとえば、モバイルマネーの普及で長らく世界をリードしているのはケニアだ。携帯端末同士でテキストメッセージを送り合えるように、簡単かつ瞬時に送金ができるのだ。ナイロビでは携帯電話でタクシー料金が支払えるのに、ニューヨークではそれができないという状況が何年も続いていたほどである。

ケニアでモバイルマネーが普及した一因は、同国が銀行インフラの存在しない空白状態だったことにある。ほとんど誰も銀行口座を持っていない国では、既存の決済システムとの競争がまず存在しない。そして、政治的要因も働いた。モバイルマネーの使用が一気に広がったのは、2007年から2008年にかけての選挙後の混乱期に、倫理的問題で突き上げをくらっていた銀行を利用するよりも安全な選択肢と見られたためだ。

ときには特定の場所ではなく、特定の関心を共有する集団が、新たなテクノロジーをいち早く使いはじめることもある。最もわかりやすいのが技術者コミュニティだ。テクノロジーオタクは電子メールからウーバーに至るまで、新たなテクノロジーを真っ先に取り入れている。ただ、それにとどまらず、もっと大きなトレンドの水先案内人になることもある。たとえば彼らは「フィットネス・トラッキング」端末もいち早く使いはじめた。自らの健康や運動をひたすらモニタリングする「自己定量化(QS)ムーブメント」はテクノロジーカルトとして始まったが、今では幅広い層に広がりを見せている。

ベンチャー投資会社アンドリーセン・ホロウィッツで働くクリス・ディクソンは、ネットニュース・掲示板サイトの「レディット」で、新たなテクノロジーや行動についてのスレッドが立つかどうかを頻繁にチェックするという。スレッドが立てば関心が高まりつつあるというサインだ。人気が広がるかどうかを判断するのは時期尚早だが、たとえばテクノロジーオタクのあいだでは目下、栄養的に完璧なフードシェイク(調理の必要がなく攪拌するだけ)から、「食べるコーヒー」とでもいうべきカフェインを添加した菓子など、新たな食品テクノロジーへの関心が高まっている。

歴史との比較が万能ではないように、限界的事例を参考にするのにもリスクはある。結局離陸しないテクノロジーもあれば、離陸したとしてもまったく予想しなかった、あるいは予想とは違う方向へ進むものもある。たとえば欧米では、携帯端末は当初、日本と同じ軌道をたどるかと思われたが、iPhoneをはじめとするタッチスクリーン端末の登場によってまったく違う方向へと進んだ。

それでも、最終的に普及するテクノロジーは例外なく、一部の集団だけに使用がとどまっている潜伏期を経ることは否定できない。突然、どこからともなく湧いてくるわけではないのだ。限界的事例を見つけ出し、これから台頭するテクノロジーや行動を見抜くのは科学というより職人芸だ。トレンドを当てるのは難しい。しかし、それこそあまたのコンサルタントや未来学者、そしてつねに記事の材料となる新しい発想やトレンドを探しているテクノロジージャーナリストの仕事なのだ。

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