6つの心理を突き「人をだます」恐怖の誘導術 マインド・コントロールはこうやって起きる

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この6つの原理(ルール)は、人間の行動を導く基本的な心理学の原理に基づいており、彼らの手法にパワーを吹き込んでいるというのです。

影響力の武器となる心理的な原理原則

(1) 返報性
「人から何らかの恩恵を受けたら、お返しをしなければならない」という原理。生命保険のセールスマンは、花の種をくれて、ゴミ出しを手伝い、肩までもんでくれた。何かお返しをしなくてはと思ってお茶を出したが、まだ借りがある。彼が勧める保険に入れば、お返しができると考えてしまう。
(2) コミットメントと一貫性
「自分が何かしたら、その後も以前にしたことと一貫し続けたい(一貫していると人から見られたい)」という原理。お孫さんの学資保険に入ったあなたは、次に生命保険に入るときも、同じ会社の同じセールスマンにしようと思う。別の保険会社に変えれば、あなたの前回の判断には問題があったことになってしまう。
「コミットメント」は訳しづらい言葉で、日本語では「(責任を伴う)約束」といった意味だが、一貫性と相まって、人は自分で決めたことや約束したことは、後から変更することが非常に難しくなる。マインド・コントロールは、他者からの働きかけによって、本人に一つひとつの決断を迫っていくものだが、この「コミットメントと一貫性」と相まって、次第に引き返すことが困難となる。
(3) 社会的証明
「人は、他人が何を正しいと考えるかに基づいて、物事が正しいかどうかを判断する」という原理。生命保険のセールスマンは「近所の○○さんも入ってくれました」と言った。○○さんは保険の専門家でもないのに、あなたは「それならば」と思ったはず。
(4) 好意
「人は、自分が好意を抱いている人からの頼みを受け入れやすい」という原理。あなたが大切にしている花を褒めたセールスマンを、あなたは「悪くない人だ。自分と趣味が合う」と思うことになる。肩をもんでくれたときは、好意を感じる。自分が好いている人の頼み事なら聞いて当然だ、と考える。
(5) 権威
「人は権威に弱く、権威者の命令や指示には深く考えずに従いがちである」という原理。セールスマンが勧めるパンフレットには、有名なベテラン俳優の顔写真が掲載されている。その会社はテレビCMの放映もたくさんしており、株価も高い。これらはすべて会社の権威性を高める。権威ある人が、権威ある会社の生命保険を勧めているのだ。安心して加入できる、と考えてしまう。
(6) 希少性
「あるものが手に入りにくくなればなるほど、それを得る機会が貴重と思えてくる」という原理。生命保険のセールスマンは、「キャンペーンがあと5日で終わってしまう」といった。このチャンスを逃す手はないだろう。急いで手続きをしなければ、自分は損をしてしまう。デパートのバーゲンやタイムセール、通販番組などで、多くの人が体験する。

 

チャルディーニ博士は、このように影響力の武器となる心理的な原理原則を上の6つにまとめました。なお博士は、6つの原理の中に「物欲の原理」、つまり人は選択をする際にできるだけ少ない支出で多くを得ようとする、という原理を「当たり前の動機、言うに及ばぬ要因」として含めなかったと述べています。

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