松下幸之助「日本の伝統精神」の3つ目とは? 1「衆知を集める」、2「主座を保つ」

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徳川の時代でもそうやな。常識的に考えて、あれだけ続いたということは、武力によって残虐なことが行われていた、無慈悲なことばかりが行われておったということではない。そういうことであれば、300年も続かんわけや。

そうではなくて、むしろ儒教のような学問を研究、奨励し、いわば人間哲学というものを基礎において政治を進めることを理想とし、そういう考えにたって実際の政治を行っておったと思う。いわば徳行政治を基本としておったといえるわけで、こういうことからも和を貴ぶ日本の伝統精神がうかがわれるわけやな。

長い歴史を通じて受け継がれてきた

明治になって100年程の間に不幸にして日本は何度か戦争をした。そういう姿を見て日本人は平和を愛するよりも、戦争を好む国民だ、それが日本人の国民性なのだという見解が海外に生まれてきた。まあ、それは致し方のない面もあるけど、日本人自身の間にも一部生まれてきておるわな。しかし、明治以降の歩みを一面だけ見ておると、そういう見方もできるかもしれんが、それは一面であり、短期的見方であるわけや。

やはりわが国の長い歴史のなかで、日本人がどのように歩んできたか、どのような考え方であったのか、そういう判断をせんといかんのやないやろうか。特に一部の日本人が日本人を本来好戦的で軍国主義的な国民だ、戦争をしたがる国民やと考えておるのは、長い歴史を知らんのやね、早い話が。

歴史や伝統を通観すればな、日本人が和を貴び、平和を愛し、お互いに仲良くしあっていこうとする国民であり、そういう伝統の精神をもっていることが、すぐに理解できるわけや。長い歴史を通じて受け継がれてきた「和を貴ぶ精神」、それをはっきり認識し、その上にたって、平和を求めていく、それが大事やな。

とにかく日本の伝統精神は、ひとつは衆知を集めること、2つ目は主座を保つこと、3つ目は和を貴ぶということであると、わしは思っておるんや。こういう精神を認識し理解し大事にしていくことが、日本と日本人自身のみならず、国際社会や世界人類のためになる。そういうことをよく考えておかんといかんな。

そうか。もう6時か。今日は、時間が経つのが速かったな。今日のように1日話をするということは、今までにはなかったことや。もうそろそろ帰るわ。ほんま、こんなに長いこと話をしたのは初めてやなあ。

しかし、まだ、明るいな。日が長い。冬の頃であれば真っ暗やね。この庭の青葉若葉が、ほんまにきれいや。まあ、長生きして、こういう美しい景色を見れるのも幸せやで。ありがたいことだと思うよ。こうやって立って見るとまた少し景色も変わるな。うん、ええ庭や。

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