不条理な人事を乗り越える人の「心の習慣」 周辺的な位置にいる人こそ強くなれる

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――具体的にはどのようにがんばったのですか?

現地へ赴いたとき、本社に対する敷居の高さというものを強く感じました。それは仕方ないですよね。しかも社員たちは業績悪化のあおりで給与カット、ボーナスもなしという状況なのですから、私は進駐軍も同然だったんです。

出向先では、会社が抱える含み損の調査や、経営課題の洗い出し、管理・予算制度を整備するのが私の仕事でした。大赤字の危機的状況でしたから、土日もなく働き、残業時間は月200時間を超えることも珍しくありませんでした。こんなこと、今の時代には大きな声では言えませんね(笑)。

佐々木常夫氏

その一方で、夜は出向先の社員たちと腹を割って話したいと思い、よく飲みましたよ。「本社から送り込まれてきたこの佐々木という男は、信用できるのか」という目で見ていますから、私は酒の席で聞いた社員に不利な情報を、上層部には絶対に流しませんでした。そのおかげで私は信用されて、私に有益な情報が集まってきたのです。

私が本社に戻る日の夜、出向先の飲み仲間が繁華街の交差点のど真ん中で私を胴上げしてくれたんですよ。あの夜のことは、一生忘れられません。

――異動を最良の経験にされたのですね。

その会社は無事再建を果たしました。その一翼を担ったという経験は非常に大きかった。出向先で私は本当に多くのことを学んだし、自信もつきました。

どんな異動でも……たとえ左遷人事だったとしても、かならず何かしら得るものがあります。それぞれの立場で働く人々から自分にない考え方を教わったり、新しい人脈を築いたりできれば、たとえ左遷であっても意義がある。左遷は、発想を変えると、「新天地」にも「新しい体験ができる機会」にもなるのです。逆に、左遷を決めた上司を恨み、腐ってしまっては、本当にサラリーマン人生は終了してしまいます。「左遷を左遷にするのは己」なのです。

――それでも、やはり飛ばされたという不安や焦りを払拭するのは難しいですよね。

もちろん、不安や焦りはあるでしょう。そこで自分を信じられるかどうかが問われているのではないでしょうか。

ライフネット生命の出口治明さん、良品計画の松井忠三さん、アサヒビールの元会長の瀬戸雄三さん、帝人の元会長の安居祥策さん、皆さん、本流ではなく左遷・出向を経験した、いわば「傍流」出身の経営者です。周辺的な位置にいる「マージナルマン」ほど、既存の秩序や社会的な価値に異議申し立てができ、イノベーションの主体になれるという経済学者もいます。

私は、逆境は経験したほうがいいと本気で思いますよ。人間が鍛えられ、粘り腰が強くなる。いちばん恐ろしいのは、逆境に置かれて「腐るリスク」です。

つねに準備をしている者に、チャンスは訪れる

――結局、佐々木さんは本社に戻られたのですね。

ええ、約3年で本社に復帰しました。東レ本社に戻ったときの仕事の仕方は明らかに変わっていましたね。

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