ガン治療で「我流」横行、無用の痛みで苦しむ日本人 <シリーズ・くすりの七不思議>

臨床試験のハードルの高さや製薬会社の販売方針のため、世界各国で使われているのに日本では使われていない薬はたくさんある。とりわけ生命に直結するガンでは抗ガン剤の早期承認は患者にとって切実な問題だ。

そのあしき代表と言われていたのが、「エロキサチン」。進行・再発の大腸ガンでは、一番目に使う薬(第一選択薬)として世界中で使われていたにもかかわらず、日本で承認されたのは2005年になってから。それが実現するために患者団体などの根強い運動が必要だった。世界標準なのに日本で未承認となっている薬は、抗ガン剤に限っても依然として数十以上ある。

ガン治療でさらに問題となっているのは、たとえ薬が承認されていてもそれが正しく使われていないという点。ガン治療では、抗ガン剤を使った化学療法、外科手術、放射線治療などを組み合わせるが、それが適切に行われていない場合がある。病気の部位や広がり、進行度合いによって、最も治療効果が高いと学界で認定された治療法=標準治療が決められているが、日本では守られていないケースが多い。

「私の治療が間違っているというのか! 私がイヤならほかの医者のところに行ってもらって構いませんよ」--。卵巣ガンが再発したAさんが主治医から投げつけられた言葉だ。化学療法ではいくつかの抗ガン剤を併用することが多い。卵巣ガンでも併用療法が世界標準となっていることを知ったAさんが主治医に相談したところ、激高してしまったという。この医師は卵巣ガンの標準治療を知らなかった可能性もある。

こうした例は必ずしも珍しくない。国立がんセンター東病院で、他の病院から紹介されてきた進行乳ガンの患者78人について、これまでどんな治療がされてきたかを調べたデータがある。

それによると、標準治療かそれに近い治療がされていたのは、およそ半分の34人にすぎず、35人が「かなり外れている」か「害をもたらす」治療だと判定されている(下図参照)。つまり半数の患者が、デタラメな治療だったのだ。効果の不確かな経口(飲むタイプ)の抗ガン剤を使ったり、ホルモン剤が効かないのにホルモン剤を投与するなど「我流治療」が目につく。

標準治療が普及しない背景として、専門医の不足が指摘されている。ガンの化学療法の専門医である「がん薬物療法専門医」の育成が05年から始まったがこれまでに認定されたのは200人にすぎない。こうした専門医が1万人を超える米国とは格段の差がある。

ガンの痛みを取る疼痛治療(疼痛緩和)でも日本は後進国だ。9割以上の患者がモルヒネなどの医療用麻薬によって痛みを和らげることが可能なのにその普及が進まない。日本ではなぜか麻薬依存症(中毒)への警戒感が強い。適切に投与すれば依存症の心配が不要なことが国際的にも明らかになっているのに、日本の医師は目を背ける。人口当たりの使用量では、カナダの5分の1、米国や英国の4分の1にとどまっている。つまり日本の患者は無用の痛みに苦しめられていることになる。

正しい薬の使い方が日本ではまだまだ患者に届いていないということが、ガン治療からもわかる。

(週刊東洋経済)

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