ソフトバンクが惚れたあの「配車アプリ」の今 シンガポールのGrabは今も急成長中

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さらに、ここへきてグラブが力を入れているのが、モバイル決済事業だ。同社は2015年末にアプリ上で決済ができる「GrabPay(グラブペイ)」を開始、さらに2016年11月末には、コンビニや銀行などでグラブペイにチャージできる「GrabPay Credits(グラブペイクレジット)」を始めた。

背景にあるのは、クレジットカード普及率の低さだ。世界銀行の調べによると、東南アジアで銀行口座を持っている人の割合は27%、クレジットカード所有率はわずか9%にとどまる。そこで、コンビニなどで簡単にチャージできる決済サービスを提供することでキャッシュレス取引ができるようにするだけでなく、ゆくゆくはグラブの利用以外にもグラブペイを利用できるようにしたい考えだ。

インドネシアに7億ドルを投資

モバイル決済事業で、とりわけグラブが注目しているのはインドネシアだ。前述のとおり、インドネシアは人口が多くて若いだけでなく、「渋滞問題」を抱えるほか、クレジットカード普及率も低い。こうした中、同社は2月上旬、2020年までに、インドネシアに7億ドル(約770億円)を投資すると発表。新たに、ジャカルタに研究開発センターを設立し、同市の渋滞緩和に向けた技術開発に勤しむだけでなく、同国のベンチャー企業などにも投資していく計画だ。

4月3日には、2月からうわさになっていた、インドネシアの決済システム会社、Kudoの買収を発表。同社は、クレジットカードを持たない人でもネット上で買い物できるサービスを提供しており、グラブにとっては理想的な相手。マー社長はこれに先駆けて、「ゆくゆくはクレジットカードを持たない人がおカネを借りて、自動車や家を買える手助けをしたい」と話しており、今後はKudoの金融機関ネットワークを利用してこうした分野に乗り出すことも予想される。

ただし、インドネシアは成長期待が高いだけに、激しい競争も予想されている。配車事業では、グラブやウーバーに先駆けて、Go-Jek(ゴージェック)が2010年からバイク配車サービスを始めており、「インドネシアではGo-Jekの人気が最も高い」(インドネシアに駐在していた日本人)という。

Kudoの買収額は明らかにされていないが、一部報道では1億ドル程度とされており、これが本当ならばインドネシア市場最大の買収案件となるようだ。ソフトバンクという巨大企業に支えられたグラブは、今後も資金力にモノを言わせて有望企業を「取り込む」ことでシェア拡大を狙うのか。東南アジアの企業らしからぬ、ソフトバンク流の積極性と強引さ、そしてしたたかさは吉と出るだろうか。

倉沢 美左 東洋経済 記者

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くらさわ みさ / Misa Kurasawa

米ニューヨーク大学ジャーナリズム学部/経済学部卒。東洋経済新報社ニューヨーク支局を経て、日本経済新聞社米州総局(ニューヨーク)の記者としてハイテク企業を中心に取材。米国に11年滞在後、2006年に東洋経済新報社入社。放送、電力業界などを担当する傍ら、米国のハイテク企業や経営者の取材も趣味的に続けている。2015年4月から東洋経済オンライン編集部に所属、2018年10月から副編集長。 中南米(とりわけブラジル)が好きで、「南米特集」を夢見ているが自分が現役中は難しい気がしている。歌も好き。

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