「所得連動返還型奨学金」のメリットと課題 2017年度から政府が高等教育支援策を拡大

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ただ、この所得連動返還型奨学金には大きな課題も残されている。それは将来の年収が低いままの場合、月々の返済負担は軽減されるが、返済しなければならない債務総額自体は変わらないため、返済期間が大幅に長くなってしまうことだ。先のケースでいえば、年収200万円台半ば以下が続くと、返済期間はざっと30年以上(定額型は15年)となる計算で、場合によっては定年過ぎまで返済が続くこともありうる。

今回は無利子奨学金から開始するが、政府は将来的に有利子奨学金でも所得連動返還型の導入を検討している。その際、現状のような超低金利環境ならまだよいが、将来、金利がそれなりに上がってくると、債務総額は大きな問題となってくる。返済月額が低く返済期間が長期化すると、その期間にも金利がかかるため、債務総額が膨張してしまうからだ。これでは借金拡大のリスクが学生の重荷になり、所得連動返還型のメリットは台なしになってしまう。

年収が長期間低いままなら返済免除を

海外を見ると、すでに英国やオーストラリア、ニュージーランド、米国などで所得連動返還型の学生ローンが導入されているが、それらは返済期間が20~30年(最長返済期間)を経過すると、その段階で債務残高がすべて免除されるシステムになっている(その費用は公費で賄う)。つまり、卒業後、長期にわたって所得環境に恵まれなかった場合、返済期間内には所得に応じて軽減された額の返済を行い、最長返済期間に到達すれば債務残高は全額免除される。このような制度であれば、将来の所得がどうなるかが不安であっても、学生はローンを借りて進学することに前向きになることができるだろう。

日本でもこのような仕組みを導入し、所得連動返還型奨学金をより魅力的な制度とすることが重要だ。だがその際、必要となるのは財源だ。一部学生での債務免除に対し、一般会計からの手当が必要となるからだ。

足元では与野党の間で、財源論を含めた新たな高等教育進学支援策の議論がかまびすしい。新たな支援策では、給付型奨学金の一段の拡充に加え、所得連動返還型奨学金での上記のような債務免除の導入も検討する価値は十分にある。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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