風邪に抗生物質、精神科での過量投与…続く多剤・大量投与 <シリーズ・くすりの七不思議>

 風邪(上気道炎)にかかった際、痛み止めや解熱剤とともに、処方されることの多い抗生物質(抗菌剤)。ところが風邪に抗生物質が効かないことを読者はご存じだろうか。風邪の8~9割はウイルス感染が原因で、抗生物質ではウイルスを抑えることができない。ところが多くの内科医、小児科医は慣習として抗生物質を使い続けている。世界を見ても、通常の風邪に抗生物質を使うのは日本だけだ。

こうした治療効果がはっきりしないまま大量の薬が使われる多剤投与は、特に精神科で深刻な問題となっている。本来の治療効果が望めないばかりか症状を悪化させているにもかかわらず、患者やその家族からのクレームがつきにくいこともあって、なかなか改善されていないという。

精神科治療に携わる薬剤師がメンバーの「精神科臨床薬学研究会」が、一昨年、統合失調症患者9325人を対象に行った調査によると、抗精神病薬の1日当たりの平均投与剤数は2・2剤。これは古くから使用されている抗精神病薬の主成分「クロルプルマジン」に換算すると1日当たり約870ミリグラムとなり、適切な量とされる400~600ミリグラムを大きく超える。しかも3割の患者が1000ミリグラム以上も投与されていた。

日本では統合失調症の患者は約76万人(2005年度患者調査)。この治療は薬物療法が基本で、欧米では単剤で効果を発揮する非定型薬と呼ばれる新たな薬が主流となっており、特に米国では非定型薬が95%を占めている。ところが日本ではいまだに古いタイプの定型薬が主流で、非定型薬は30%程度にとどまっている。しかもそれらを併用したり、用量の上限を超えて投与するケースが多いとされる。

そうした用法・用量の不適切さを示す詳しい調査データがある。神奈川県内の病院に勤務する薬剤師のグループが、県内の精神科医123人を対象に、非定型型抗精神薬の処方を調べたところ、「セロクエル」「リスパダール」という薬では約1割の医師が本来の開始用量よりも多い量で投与を開始した経験を持っていた(下表)。

抗精神薬の処方は少量から始めて、患者の症状を見ながら少しずつ投与量を増やしていくのが鉄則。いきなり多くの量を与えるのは逆に副作用問題を生じさせかねない。「ジプレキサ」という薬では、開始時にいきなり上限を超えた投与量という乱暴な処方もあった。

過剰投与の理由を尋ねたところ、多くの医師が「効果不足」を挙げる中、「ジプレキサ」に関しては少数だが「MR(製薬会社営業担当)が推奨するから」との回答もあった。

なぜこうしたことが行われているのか。その一因には精神科の治療現場での人手不足がある。医療法で精神科の医師1人が受け持つ入院患者は他科の3倍に設定されており、看護師も受け持ち患者が多い。少ない人員で治療に当たるため、症状の重い入院患者には治療よりも鎮静作用を重視した処方が行われがちだ。

最新の治療方法を身につけず、適切な治療を行わない医師。それに乗っかり不要な薬を販売し続ける製薬会社。いずれにしろ不利益は患者と医療制度を支える国民全体に降りかかる。

(週刊東洋経済)

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