対北朝鮮の「敵基地攻撃論」には実効性がない 安倍政権下の自民党内でにわかに勢いづくも

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北朝鮮は頻繁に弾道ミサイルを発射、写真は3月6日のテレビ報道(写真:AP/アフロ)

自民党国防部会などが3月末に、自衛隊が北朝鮮のミサイル発射基地を攻撃する能力(提言では「敵基地反撃能力」と表現している)を持つための予算措置などを求める提言をした。北朝鮮が核実験やミサイル発射実験を頻繁に繰り返すことへの対抗措置で、「北朝鮮の脅威が新たな段階に突入した」「弾道ミサイル防衛の強化に一刻の猶予もない」など、危機感を前面に出した提言となっている。

北朝鮮の核兵器やミサイル開発は、特に最高指導者が金正恩(キムジョンウン)委員長になってから異常なペースで進められている。米中首脳会談を前に4月5日の早朝にも弾道ミサイルを日本海に発射した。こんな厄介な国をやりたい放題にさせておくことほど危険なことはないのは事実だ。しかし、だからといって、日本が北朝鮮のミサイル基地を攻撃する能力を持てば問題がすべて解決されるというほど単純な話ではない。

すでに北朝鮮は移動式の弾道ミサイルを多数持っており、それらすべてを破壊することは軍事技術的に不可能な状況となっている。日本が自衛のためといって一部のミサイル基地を攻撃しても、北朝鮮が残ったミサイルで報復に出てくることは避けられない。

憲法解釈は条件付きで容認だが現実的でない

そもそも敵基地攻撃のために必要な人工衛星をはじめとするシステムを独自に整備するには兆円単位の莫大な費用が必要であり、財政的にも難しい。また日本が海を越えて外国の軍事基地を攻撃する能力を持つことに対して、中国など近隣諸国が激しく反発するだろう。その結果、外交関係が混乱し、それが逆に北朝鮮を利することになりかねないのである。

まず、法律的に自衛隊が海外の敵基地を攻撃することは許されているのかという点だが、憲法では自衛隊が海外で武力行使することは禁じられている。この点について1956年に政府(鳩山一郎内閣)は、明らかに日本をミサイル攻撃しようとする国があれば、「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられない」という見解を示している。つまり、条件付きだが敵基地を攻撃することは自衛権の行使に当たり、憲法上問題はないという解釈であり、この見解はほぼ定着している。

しかし、冷戦時代に繰り広げられたこうした議論や解釈はあくまでも机上の空論でしかない。当時はソ連や中国が弾道ミサイルの実験を繰り返していたが、この憲法解釈にのっとって政府が敵基地攻撃論を現実の政策論として打ち出したことはない。

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