アメリカで機会格差の拡大が起きた理由 危機にあるアメリカン・ドリーム

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現在の米国の下層階級の子どもたちには、自らの範となってくれたりするような知り合いや、メンター(助言者)などがいない(写真:Apatcha / PIXTA)

アメリカン・ドリーム。それは、大志を抱く者が自らの実力ひとつでのしあがっていくサクセス・ストーリーである。しかしじつは、そんなアメリカン・ドリームがいま危機に陥っているのだという。どうしてだろうか。

可能性が閉ざされた現在のアメリカ

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それは、ひと言でいえば、現在のアメリカでは機会の階層間格差が極端に大きくなっているからである。一方で、裕福で教育水準の高い家庭の子どもには、進学や就職における多様な選択肢が開かれている。だが他方で、貧しく教育水準の低い家庭の子どもには、そうした選択肢などはなきに等しい。それゆえ、自らの出自を飛び越えて実力ひとつでのしあがっていくという可能性が、これまで以上に閉ざされてしまっているのである。文字どおり夢のない話ではないか。

本書『われらの子ども:米国における機会格差の拡大』は、以上のようなアメリカ社会の変化、すなわち「機会格差の拡大」を真正面から論じたものである。著者は、アメリカ政治学界の重鎮で、『孤独なボウリング』でも知られるロバート・パットナム。広く一般読者から支持を得たという意味では、本書は『孤独なボウリング』と並ぶ彼の代表作といえるだろう。

では、機会格差の拡大はどのような形で進行してきたのだろうか。第1章で語られる、ポートクリントンの社会の変容ぶりにまず驚かされる。パットナムが青春時代を過ごした1950年代、オハイオ州のポートクリントンは機会に関しておおむね平等な社会であった。上層階級も下層階級も同じ地域で暮らしていたし、また、裕福な家庭の子も貧しい家庭の子も同じ学校に通っていた。そして、たとえ貧しい家庭の子であっても、当人にすぐれた能力や資質があれば、周囲からのサポートなども得て、社会的なはしごを駆け上っていくことができた。

しかし、2010年代のいま、ポートクリントンの状況は一変している。大きな潮流は、1970年代からの経済衰退と労働者階級の没落だ。だがそれと同時に、そこではこの数十年でもうひとつ別の流れも進行していた。恵まれた自然環境を有するその地域に周辺の富裕層が流入し、エリー湖畔の一角に集住したのである。

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