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形だけのガバナンス改革は不要
企業価値向上につながる取締役会改革とは?
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泉谷:社内の取締役は、企業に根差す「ぶれない判断基準」を社外取締役と共有すべきでしょう。わが社で言えば、「経営理念」「ビジョン」「中期経営方針」。これに、社内外の取締役の知見を合わせて議論していきます。社外取締役には内部とは違った目線でものを見ていただくこと、そこから経営に指摘いただくことが大事になってきます。

さらに言えば、TOB(株式公開買い付け)や経営統合の提案がなされたときには、社外取締役が中心になってそれらに対応します。買収防衛策が入っていれば、当然、独立委員会で審査をすることになる。つまり、企業の最後の命運を社外取締役に託すことになるわけです。それを考えると、社外取締役は誰でもいいという話にはなりません。昔のように大所高所からご意見を拝聴するお目付役として参加いただいてそれで終わり、という形式的な社外取締役の時代ではないのです。

ただし、ここで、根底の部分で認識をしておかないと失敗をします。まずは、株主と経営者、あるいは社内取締役と社外取締役といった、「情報の非対称性」です。つまり、経営の情報というのは社内の取締役がいちばん持っています。社外取締役にも意思決定に参加してもらうが、意思決定に参加するために必要な情報には差があるのです。

また、われわれ経営陣が持っている情報と株主が持っている情報にも大きな差があります。これをどうやって埋めていくかを基本に置いておかないと、「対話」や「エンゲージメント」と言っても、何をどう伝えるのか、という話になって、具体的な改善につながりません。

さらに、「株主と経営者の利害の不一致」があります。たとえば、経営陣は、ここである程度リスクを取って決断をして投資すべきだと言う。しかし、株主から見てみれば、それはリスクが高く投資すると企業価値が落ちる可能性がある、と判断することも起こりうる。こうしたことについてもつねに認識を合わせて、ギャップを埋めていくことが必要になります。

酒井:川本さん、澤口さんはそれぞれ社外取締役を務めていらっしゃいますが、その役割についてどう考えていますか。

川本:たとえば、M&A(企業買収)の大型案件等で大事なのは、経営の意思、その企業がどんなことをしたいのか、どんなビジョンでどういう企業でありたいのか、をもとに判断することが多いので、会社のビジョンと齟齬がないか、といったことを、社外の立場で拝見させていただいて、もし意見があれば言うことだと思います。

澤口 実
森・濱田松本法律事務所 パートナー

澤口:経営者の方は真剣に経営に取り組まれています。それを取締役会で数時間程度検討した社外取締役に決定的なところを指摘できるでしょうか。そんなことはないはずですよ。つまり、社外取締役を迎えたから企業価値がバリバリ上がるという論調には違和感があります。ただ、社外を入れる必要はやはり「ある」わけです。なぜなら上場企業の株主構造は以前とはまったく違ってきており、外国人を含む機関投資家の持ち株比率が高くなる中、日本企業に資金を集めるためにも、機関投資家が株主利益の代弁者になることを期待している社外取締役は、今後も増えていくことは間違いないと思います。

取締役会改革の面では、もう少し先を見据えたうえで、社外が多い取締役会がどんな機能が果たせるのか、社外取締役に何を期待すべきで、何を期待すべきではないのかという視点で考えるべきだと思います。

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