「日本人こそ主役」が日本が守ってきた精神だ 松下幸之助が語った「日本の伝統精神」

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2つ目の日本の伝統精神とは何でしょうか(写真:東洋経済写真部)
江口克彦氏の『経営秘伝――ある経営者から聞いた言葉』。松下電器産業(現パナソニック)の創業者である松下幸之助の語り口そのままに軽妙な大阪弁で経営の奥義について語った著書で、1992年の刊行後、20万部を売り上げるヒットになった。本連載は、この『経営秘伝』に加筆をしたもの。「経営の神様」が問わず語りに語るキーワードは、多くのビジネスパーソンにとって参考になるに違いない。

 

日本の伝統精神の1つ目は「衆知を集めること」(前回記事「日本の伝統精神は独断専行を認めていない」参照)。では2つ目の日本の伝統精神は何か。それは「主座を保つ」ということやね。日本人として、いつも自分というものを忘れない。忘れているように見えるときもあるけれども、忘れていない。本来の自分というものを根底に置いて、その上に新しいものを載せる。そういうところが日本人にはあるな。だから、外国からさまざまな文化を取り入れたけど、日本らしさというか、本来の日本たるところのものを失わん、というところがあるね。

たとえば、文字ひとつとっても、そういうことが言えるわけや。いま、われわれは文字としては、漢字、平がな、片かなというものを使っておるわな。その漢字というものは、言うまでもなく、中国から入ってきた。その漢字が入ってくるまでは、日本には、文字らしい文字は、なかったと言われておるわね。そういうところへ漢字が入ってくれば、それがそのまま日本の文字となり、漢字一色ということになっても不思議ではないと思う。

けど実際には、そうはならんかったわけや。その漢字をもとにして、いつの間にか日本の言葉に合わせた平がなと片かなを創り出し、それを漢字と合わせて使うことによって、読み書きを非常に便利にしておる。

日本文化を一言で言えば「かな文化」

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山本七平先生やったかな、日本文化を一言で言えば、「かな文化」であると。かな文化が存在しなかったら、日本も存在しなかったとまで言ってたな。それだけではない、今日の近代化にも工業化にも、非常な困難を伴ったであろうというようなことを言っておられた。

結局、漢字という外国の文化を受け入れたけれども、それをただ鵜呑みにするだけではなく、また、全面否定するのではなく、日本の実情に合わせて、よりよい物に作り上げていったわけで、そこに日本の伝統精神の、主体性を失わない、すなわち、「主座を保つ」という、そういうところがハッキリしている。

宗教というものもそうや。うん? 6世紀頃か? 百済から仏教が伝えられたといわれておるけど、それが次第に日本の隅々と言っていいほどに広まり、日本の文化を形成するまでになったわな。

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