クスリの大図鑑 <関節リウマチ> 生物学的製剤の登場で痛みや腫れが“半減”

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 MTXが広まりにくい背景には、副作用問題がある。切れ味のよい薬ほど副作用も強い。その例に漏れず、MTXを使用した患者のうち、1~2割に用量依存性(消化器・肝障害など)、非依存性(肺炎など)の副作用が発生する。

アメリカのリウマチ専門医のほとんどが内科医であるのに対し、日本のリウマチ専門医は内科医が4割で、残り6割は整形外科医だ。整形外科医にとって、専門外分野の副作用のおそれがあるMTXの使用に抵抗があることは否めない。しかし、「早期診断とリスク管理さえできれば副作用の重症化を防ぐことが可能」(宮坂教授)だ。

リウマチは発症後1年間で関節破壊が最も進む--90年代の研究で判明した事実だ。それ以降、進行の早い患者に対しては、症状がひどくなる前にMTXを使用すべき、という考え方が主流となっている。専門病院では、早期から強い薬を投与し、徐々に弱い薬に切り替えていく治療法に変化している。「ピラミッド療法」の逆をいく形だ。

細胞の活性化をブロック 日常生活への復帰も

さらにここに来て、生物学的製剤をMTXと併用で使って効果を高めるという第2の進化が起きている。

生物学的製剤は、炎症を引き起こすサイトカイン(細胞を活性化させる物質)だけを抑え込む治療薬(効き方[3])だ。患者の体内で過剰に作られているサイトカインの産生を抑制する。痛みや腫れなどの症状消失率が5割というデータもあり、うまく使えば、関節の機能を復活させ、仕事など日常生活に復帰できると注目を集めている。

現在、日本で使用可能な生物学的製剤は4剤。市販後全例調査を終えたレミケードとエンブレル、さらに今年からアクテムラ、ヒュミラが新たに臨床現場で処方される。

オランダのある研究では、早期リウマチに強力な治療を行えば、その後投薬を中止しても症状消失を維持できる可能性が示された。通常、発症から1年以上経過した患者に対してしか行われていなかった併用治療(MTX+レミケード)を、発症1年以内の患者120人に実施、うち16人については治療開始から3年経過した現時点でMTX・レミケードとも中止し、すべての治療もストップしたものの、患者は症状消失を維持している。

ガンに「5年生存率」という言葉があるように、リウマチも5年間症状がないと、一般的に「治癒」と見なされる。薬中止から5年経過時、先の16人が治療を中止できていれば治癒。症状消失の先に、治癒の可能性も見えてきた。

ただ生物学的製剤は、高額な薬だ。自己負担3割で年間50万円に上る薬剤費は、患者にとって大きな負担となる。リウマチ友の会の長谷川三枝子会長は、「高額医療費が支払えず、医師の勧めがあっても生物学的製剤の治療を受けられないとの相談が多く寄せられている。薬価引き下げと、医療費の助成制度を望む」と訴える。

リウマチ治療の方向性は確立しつつある。その情報が医療現場に広く行き渡るとともに、医療費への対応策ができれば、リウマチは克服へ一歩近づく。

表とグラフの見方
 表は、疾病別の主要医薬品を2007年度売上金額の上位順にランキング。ただし一部の売上金額と前期比伸び率は本誌推定。また一部は薬価ベースでの売上金額を採用しており、売上高ベースより金額が膨らむ。一方、グラフは、代表的な先発薬と、その後発品とで自己負担額を比較した。後発品薬価は08年4月現在で存在する全品目の平均値で計算。また、実際の支払い時には薬局での調剤報酬等が含まれる場合がある。

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(週刊東洋経済)
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