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成功のカギは「シンプル」と「フレンドリー」

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いま、EC市場が猛烈な勢いで存在感を増しつつある。その動きに伴い、ECで成功を手にする企業も続出。ECに進出しなければ企業の将来はないとまで言われる。では、現在のEC市場の動向はどうなっているのか。消費者の購買行動にはどのような変化が起こっているのか。そして、企業のECサイトはどのような進化を遂げつつあるのか。20年以上、EC市場をウォッチしてきた通販評論家の村山らむねさんに話を聞いた。
通販評論家 村山らむね
東芝、ネットマーケティングベンチャーのイーライフを経て、消費者目線のマーケティング支援を目指しスタイルビズを設立。企業のソーシャルメディア運営やeコマース関連、特に越境ECのアドバイザーを務める。経済産業省消費経済審議会特定商取引部会委員など各種委員を歴任

―現在のEC市場の動向についてお聞かせください。

村山 EC市場はすでに多くの企業にとって無視できない状況まで来ています。ECを味方につけているかどうか、さらにスマホ時代に対応できているかどうかで企業業績の明暗が分かれるケースが増えています。たとえば、リアル集客を重視する百貨店などはEC市場に立ち遅れる一方、いち早くEC化した中小企業は右肩上がりの成長を遂げているのです。

―消費者はどのように変化しているのでしょうか。

村山 私は1995年から20年以上、EC市場をウォッチしてきましたが、一番大きな変化は、女性の可処分所得が非常に増えたこと、そして、それに反比例するように可処分時間が減っていることです。働く女性が増え、自分のお財布をもつ人が増える一方で、忙しくなって、百貨店の営業時間内にショッピングできなくなっているのです。だからこそ、スマホを使って簡単に通勤時間などにECショッピングできる機会を提供している企業が業績を伸ばしているのです。

―購買行動も複雑化しているそうですね。

村山 かつては十人十色で、いわゆるペルソナを設定して属性や生活シーンを予測しながら、ストーリーをつくることがシンプルにできたのですが、今は消費者個人が非常に複雑化してきています。たとえば、若年層向けの商品なのに中年層で人気が出るなど想定外のことが起きています。スマホ時代になって、消費者を企業が効率よくカテゴライズできなくなり、その実態が見えづらくなっているのです。

―従来のマーケティング手法が通じなくなっているのでしょうか。

村山 これからはAIやビッグデータは使わざるを得ない状況にあると思います。ECではPV(ページビュー)で消費者の関心の度合いを表すことができるように、リアル店舗よりも消費者の「数字化」「見える化」がかなりできるようになってきています。こうした「数字化」「見える化」をいち早く採用し、分析している企業が成長しているのです。

―企業のECサイトの現状はどうなっているのでしょうか。

村山 「価格競争」から「届く競争」へ移行しています。かつては1円でも安いサイトから買う傾向が強かったのですが、意外にもスマホでは他サイトへの移動が面倒で、何か欲しいときには、まず自分のお気に入りのサイトで選ぶケースが増えています。米国では、検索サイトで検索するよりも、通販サイトで直接検索する人が増えているデータもあります。そんなお気に入りサイトになるためには、「欲しいものが早く届く」ことが重要になっています。欲しいと思ったら、すぐ手にできる。ただ、そうした現象が一方で、宅配問題や企業の物流部門に人手不足といった負担を与える結果となっているのです。

―消費者がPCからスマホにシフトしていく中で、企業のECサイトの先行者利益は軽減しているのでしょうか。

村山 常に技術が進化していく中で、あとから参入したほうが有利といった後発者利益も無視できなくなっています。PCで先行していたのに、後発サイトのほうがスマホを使いやすいということで、利用者を伸ばしているケースがあるからです。しかも、ネットの消費者は移り気です。長年使っていたサイトをあっさりと捨て、別のサイトに簡単に移ってしまう消費行動もよく見られます。だからこそ、今のユーザー数を妄信してはいけないのです。

―顧客ロイヤリティを保つことが非常に難しいのですね。

村山 いま、成長しているサイトは、消費者にとってフレンドリーな企業であることを目指しています。なぜか。それはサイトという“器”は簡単に乗り換えられるけれど、SNS上の人間関係は替えられないからです。つまり、いかに消費者に仲間として取り込んでもらえるのか。その意味で、「友達に一番近い企業である」という概念が、これからの企業にとって、非常に重要になってくると思います。

―消費者と「友達」という並列な関係になることが重要なのですね。

村山 SNS隆盛の時代では、消費者は自分を肯定してくれる存在に飢えています。スマホによって自己承認欲求の天井がなくなってしまったのです。どのような情報にもアクセスでき、どんな商品でも買うことができる。さらに留保もできれば、シェアもできる。そんな消費者の万能感を謙虚に見つつ、フレンドリーで、かつ消費者を肯定するスタンスをとれることが、これから企業にとって重要になっているのです。

―ECによって成功した企業は増えているのでしょうか。

村山 シンデレラストーリーは山のようにあります。その意味では、中小企業こそチャンスなのです。代替わりで店舗を閉めるかどうかで悩んでいた会社がEC市場に進出することで成功しビルを建てたり、売上げを急激に伸ばしたりしているといった話はたくさんあります。ECは商圏を広げるため、地方の企業にとっても大きなチャンスですし、ネット専業で成功したノウハウをリアル店舗の運営に活かすといった逆転現象も起きています。

―ECで成功するための条件とは何でしょうか。

村山 EC市場では日本中のお店がライバルとなります。たとえば、どこにでもあるコーヒーショップというジャンルで、なぜ地方の小さなコーヒーショップが成功できたのか。それは相当な「商品力」と「説得力」があったからです。良い商品を、いかに消費者に選んでもらえるような言葉で伝えるのか。最近はアパレルが売れないと言いますが、それは決して売れないわけではなく、買いやすい買い方を提供していないだけなのです。だからこそ、企業のトップはネットの可能性をきちんと見据えたうえで、消費者の欲しいものをシンプルにフレンドリーに提供する機会をつくるべきなのです。

―AIやビッグデータの浸透によってEC市場はどう変わっていくのでしょうか。

村山 人は絶対に人との会話を必要としているのかといえば、必ずしもそうではありません。実はAIとの会話のほうが、むしろ満足度が高いという事例も出てきています。特にカウンセリングや資産運用分野で見られる傾向です。相手が人ではないから、馬鹿にされることもなく安心して自分の秘密を話せるというのです。その意味で今後、コンシェルジュなどカスタマーサービスの分野は、ここ2〜3年でAIに取って替わられるかもしれません。そのほうが高付加価値で高サービスを生む可能性もあるのです。

―今後、EC市場はどのように拡大していくのでしょうか。

村山 日本は海外と比べEC化率はまだ5〜6%と非常に低い状況にあります。日本は交通の便も良く、コンビニも充実しているからです。ただ、EC化率が今後下がることは絶対にありません。しかも少子高齢化の中で、EC化率を上げつつ、世界の消費者を見据えることも重要になってきているのです。その意味で、企業トップはこれからECについてきちんと理解し、考えることが必要です。それが企業の成長に大きくかかわってくるのです。

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