失速「トランプ政権」が意外としぶとい理由 オバマケア廃止失敗で勢いづく可能性も?

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オバマケア代替法案で行うつもりだった医療関連税制の減税を、まとめて税制改革で行わなければならなくなった点も見逃せない。トランプ政権と議会共和党は、租税特別措置の整理などによる税収増で、税制改革による財政赤字の拡大を抑えたい意向だったが、その作業は一段と難しくなった。

税制改革の実現に向け、トランプ政権にとっては、これまで以上に議会対策が重要になる。ライアン議長が手負いの状況である以上、問われるのはトランプ政権の力量だ。

政治に不慣れなトランプ政権の「弱さ」

振り返ると、トランプ大統領が自ら乗り出したとはいえ、オバマケア是正法案でのトランプ政権の議会対策は、どこかチグハグだった。筆者がムニューシン長官の懇談会で衝撃を受けたのは、その内容ではない。オバマケア代替法案の運命が決まる当日に、財務長官という要職にある同長官が、1時間近くにわたって悠々と懇談会に出席したことだ。

本来であれば、重要閣僚を総動員して、議会対策を展開すべき時間帯である。懇談会のキャンセルも不思議ではない。過去の政権では、そうしたなりふり構わぬ対応は、決して珍しくなかった。予定どおりにスケジュールをこなしてしまう甘さに、ワシントンの政治に慣れていないトランプ政権の弱さを痛感した。

今後、税制改革で注目されるのは、その「中身」づくりにトランプ大統領がどれだけ関わるか、である。オバマケア是正法案では、原案の作成はライアン議長が主導し、トランプ大統領は、出来上がってきた「商品(是正法案)」が何であれ、それを使ってディールをまとめることに、自らの役割を限定していたように見える。しかし結果的には、自らが納得していない商品では、ディールをまとめることはできなかった。税制改革では、自らが考案した商品で、議会共和党や有権者を説得していくことになる。

半分の花をつぼみのまま失ったワシントンの桜だが、残された花が次々と開き始め、ようやく春の風景が広がり始めたと伝えられる。懸念されていたほどの惨めな展開にはならなかったと、桜を管理する公園の関係者は安堵しているという。

オバマケアの廃止・修正という重要な公約を失ったトランプ政権は、残された公約で花を咲かせることができるのか。ディールをまとめる力を喧伝してきたトランプ大統領だが、再起がかかる税制改革では、議論を先導するリーダーシップが問われる局面を迎える。

安井 明彦 みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部長

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やすい あきひこ / Akihiko Yasui

1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、現職。政策・政治を中心に、一貫してアメリカを担当。著書に『アメリカ 選択肢なき選択』(日本経済新聞出版社)などがある。

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