クスリの大図鑑 <過活動膀胱、排尿障害> 尿の悩みに新薬続々 海外はED薬併用へ?

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 あなたのクスリ、合っていますか?−−自分や家族の飲んでいる薬をもっと知ることが健康や安心につながる。効き方から市場シェア、選択肢の有無、後発品との価格比較、新薬開発動向まで、主な12の病気のクスリについて掲載。

年とともにトイレが近くなって尿が漏れたり、逆に、おしっこの勢いが低下したりして人知れず悩む人は多いだろう。前者を総称して過活動膀胱症候群(OAB)、後者を排尿障害(前立腺肥大症)と呼ぶ。

OABは2002年に生まれた新しい症状症候群だ。トイレまで我慢できず漏らしてしまう切迫性尿失禁と、その前段階である尿意切迫感をひっくるめて「膀胱が過活動になって起きる状態」だと定義される。

膀胱と尿道の筋肉は自律神経の働きで緩んだり締まったりする(尿をためるときは膀胱が緩み尿道が締まる。排尿時は逆)が、脳梗塞やパーキンソン病のような神経性障害でこの排尿反射に支障を来す場合がある。これは「神経因性OAB」と呼ばれ、患者全体の2割程度を占める。しかし、残り8割の原因は正確にはわかっていない。加齢に加えて、男性の場合は肥大した前立腺が膀胱・尿道を圧迫したり、女性の場合は出産などで骨盤底が緩んだり、尿道括約筋が衰えるなどの“機能低下”が背景にあると見られる。

国内患者数は810万人程度いるが、受診率は4割以下と非常に低い。特に女性は恥ずかしい気持ちが先に立ち、どの年齢層でも2割を切る。ただ、日本のOAB薬の選択肢は非常に豊富であり、よく効く薬も多い。

薬物療法の主流は、神経伝達物質アセチルコリンの働きを弱めて膀胱の過剰な収縮(おしっこがしたくなる)を抑える抗コリン薬(効き方[1])だ。最も歴史のある薬はポラキスだが、中枢への移行性があり、認知症になるおそれがあるほか、眠気を伴う。排尿障害を伴う患者の場合は尿閉リスクもある(尿閉になるとカテーテルによる導尿が必要)。また、抗コリン薬はいずれも唾液の分泌が減るため口の渇きや便秘を伴う。

 ポラキスを除くとどの薬も主作用に際立った差はないが、副作用は後発になるほどマイルドだ。現在、主流を占めるバップフォー、デトルシトール、ベシケアは一日1回服用タイプで、昨年発売されたウリトスとステーブラは一日2回タイプ。薬の副作用は血中濃度が高いときに発現しやすいが、一日2回タイプは濃度ピークが低く抑えられ、口渇も比較的軽い。高橋悟・日本大学医学部泌尿器科学系主任教授は「医師は効き目と副作用のバランスを見て患者に合った薬物を処方している。決して恥ずかしがらず、決してあきらめず、受診してほしい」とアドバイスする。

開発中の新薬ではβ3受容体刺激薬が注目だ。交感神経の指示を受け止めるグローブの役割をする受容体にはαとβがあり、αは尿道や前立腺に、βは膀胱に多く存在する。交感神経が興奮すると、αは尿道を締めて、βは膀胱を緩めて尿をためる。新しい薬はβ、特にβ3受容体を刺激して蓄尿しやすくしようというデザインだ。唾液腺や腸の活動を抑えないので、抗コリン薬に見られる副作用も少ないと考えられている。

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