「超高速複合機」は、業界地図を塗り替えるか エプソンが新技術で頭打ち市場に殴り込み

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ランニングコストの安さは、インクジェット方式は部品数が少ないという構造上のメリットに起因している。これは製品の販売を担う代理店にとってもプラスとなる。これまで扱ってきたレーザー方式と比べて交換部品数が少なく、その分修理に行く回数が減り、人件費を抑えられるからだ。

レーザー方式は構造的に内部が熱くなるためメンテナンスに手間がかかるが、インクジェット方式は紙が詰まる程度の故障であれば自力で解決できることもある。

新規参入で業界秩序を崩せるか

病院、官公庁、小売り業界などから引き合い活発(写真:セイコーエプソン)

5月の発売開始を前に、LX-10000Fは病院、官公庁、流通など紙やチラシの印刷量の多い業態から引き合いが来ているもようだ。

エプソンが従来から強みを持つ卓上サイズの家庭用プリンタは市場が先細っている。エプソンが持つオフィス向け複合機のシェアは、9000億円程度の国内市場において1%未満にすぎないが、未開拓の領域に食い込むことで収益を確保したい考えだ。レーザー方式が主流の市場に、得意のインクジェット技術で乗り込む。

今回の発表では同時に、従来より展開していた低速複合機の新モデルも発表された。インクジェット方式の強みを生かし、低速機では同じスピードのレーザープリンタと比べて「コスト2分の1」、高速機では同じコストのレーザー品と比べて「スピード2倍」で印刷できる。高速機の新たな投入でラインナップを拡充し、顧客のニーズに合わせた販売が可能になった。

先行各社は顧客を囲い込んでおり、切り替えのハードルは低くはない。だがインクジェット方式の速さ、安さというメリットが認識されれば、複合機市場の地図が塗り替えられる可能性もある。

遠山 綾乃 東洋経済 記者

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とおやま あやの / Ayano Toyama

東京外国語大学フランス語専攻卒。在学中に仏ボルドー政治学院へ留学。精密機器、電子部品、医療機器、コンビニ、外食業界を経て、ベアリングなど機械業界を担当。趣味はミュージカル観劇。

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